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傘の歌 #1
〈いっぽんの傘をかざして半身と半身ひしめきあう雨のなか〉(山崎聡子『青い舌』) -
傘の歌 #2
〈傘を振り落ちないしずくと落ちるしずく何が違っているのでしょうか〉(工藤吉生『世界で一番すばらしい俺』) -
傘の歌 #3
〈ひとを待つひるのすさびに雨傘の無防備なひろがりを眺めて〉(荻原裕幸『リリカル・アンドロイド』) -
傘の歌 #4
〈天は傘のやさしさにして傘の内いずこもモーヴ色のあめふる〉(佐藤弓生『モーヴ色のあめふる』) -
傘の歌 #5
〈日常にしずんで雨の東京は傘と傘とをぶつけるところ〉(伊波真人『ナイトフライト』) -
傘の歌 #6
〈今年最後になるだろう雨のなか今年最後の傘をひろげて〉(山田航『寂しさでしか殺せない最強のうさぎ』) -
傘の歌 #7
〈もうずっと泣いてる空を癒そうとあなたが選ぶ花柄の傘〉(木下龍也『きみを嫌いな奴はクズだよ』) -
傘の歌 #8
〈会いたさは会っても消えてゆかなくて傘を差しても少しは濡れる〉(鈴木晴香『心がめあて』) -
傘の歌 #9
〈外履きのバッシュに桜がついてくるすぐに着くから差してない傘〉(岡野大嗣『音楽』) -
傘の歌 #10
〈鞄のなか昨日の雨に冷ゆる傘つかみぬ死者の腕のごとしも〉(楠誓英『禽眼圖』) -
傘の歌 #11
〈不意打ちの雨も必ず上がるから島の娘は傘を持たない〉(松村由利子『耳ふたひら』) -
傘の歌 #12
〈たわむれに傘をかざせばふりかかるきらきら雨は不幸のほそさ〉(野口あや子『眠れる海』) -
傘の歌 #13
〈傘のなか青信号を待ちながらきみには告げないきみの悪癖〉(榊原紘『悪友』) -
傘の歌 #14
〈フラミンゴきれいに足を折りたたみあの日失くした傘かと思う〉(toron*『イマジナシオン』) -
傘の歌 #15
〈それぞれの記憶を混ぜて傘立ての水受けはなに映し出すかな〉(佐佐木定綱『月を食う』) -
傘の歌 #16
〈傘を買うのは恥ずかしい 片思いしているような恥ずかしさなり〉(染野太朗『あの日の海』) -
傘の歌 #17
〈どれがわたしの欲望なのか傘立てに並ぶビニール傘の白い柄〉(魚村晋太郎『銀耳』) -
傘の歌 #18
〈雨に傘ひらく何かの標的となるかもしれぬことも知らずに〉(正岡豊『四月の魚』) -
傘の歌 #19
〈なんらかのテストのようでまた傘の角度を前に左に変える〉(虫武一俊『羽虫群』) -
傘の歌 #20
〈悪くない 置き忘れたらそれきりのビニール傘とぼくの関係〉(松村正直『駅へ』) -
傘の歌 #21
〈生まれた瞬間懐かしくなる歌のように駅の周りで傘は開いた〉(堂園昌彦『やがて秋茄子へと到る』) -
傘の歌 #22
〈傘を巻く すなわち傘の身は痩せて異界にひらくひるがおの花〉(服部真里子『遠くの敵や硝子を』) -
傘の歌 #23
〈立て置きし傘が玄関に倒れたりおどろくほどの音にあらねど〉(藤島秀憲『すずめ』) -
傘の歌 #24
〈空回りする歯車のごと傘は離れて三叉路にとけてゆく〉(田中ましろ『かたすみさがし』)
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傘の歌 #25
〈かかげ持つ傘の角度を変へしとき少し異なる街が見えたり〉(小島ゆかり『獅子座流星群』) -
傘の歌 #26
〈花柄の傘を開けば色彩に包まれている いつかやむ雨〉(川本千栄『樹雨降る』) -
傘の歌 #27
〈折れた傘が捨てられているごみ箱に僕も捨てたいな折れた傘を〉(鈴木ちはね『予言』) -
傘の歌 #28
〈なくしそうな傘と電車に揺られおり正直に謝ればよかった〉(中沢直人『極圏の光』) -
傘の歌 #29
〈傘で電柱を打ちまくっていればそこ一帯はのどかな町です〉(小坂井大輔『平和園に帰ろうよ』) -
傘の歌 #30
〈ひとつぶの雨落つるまへに傘さして去り行くひとのうしろ影あり〉(沢田英史『異客』) -
傘の歌 #31
〈徹夜明け傘をさすには微妙なる雨降る中を茫々とゆく〉(松木秀『5メートルほどの果てしなさ』) -
傘の歌 #32
〈バーバリーもレノマの傘も役立たぬ 私の中に雨が降るとき〉(大田美和『きらい』) -
傘の歌 #33
〈バス停もバスもまぶしい 雨払ふごとく日傘を振つてから乗る〉(石川美南『架空線』) -
傘の歌 #34
〈人よりも傘はもろきをきりぎりに気流みだるる空に差し出づ〉(川野芽生『Lilith』) -
傘の歌 #35
〈ホームみて車内みまわし傘もっているのが自分だけとわかった〉(吉岡生夫『草食獣 第八篇』) -
傘の歌 #36
〈ジュラ紀にも梅雨があったかもしれないこうもり傘の遠いい記憶〉(杉﨑恒夫『パン屋のパンセ』) -
傘の歌 #37
〈雨傘を泥につきさしながら行く何かを君に誓いたき日は〉(江戸雪『駒鳥』) -
傘の歌 #38
〈雨の朝どこへも行けるさびしさに傘はちいさく世界を弾く〉(柳澤美晴『一匙の海』) -
傘の歌 #39
〈透明の傘をひらけばみどりごと我にあかるき雨降りかかる〉(中津昌子『風を残せり』)