傘の歌 #10

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傘の短歌

鞄のなか昨日の雨に冷ゆる傘つかみぬ死者の腕のごとしも
楠誓英『禽眼圖』

楠誓英の第二歌集禽眼圖きんがんず(2020年)に収められた一首です。

鞄の中に入る大きさの傘といえば、折り畳み傘です。

雨が降って折り畳み傘を差していたのだけれど、その後雨が止んだので折り畳んで鞄の中にしまっておいたままになっていた状況を想像しました。

そして鞄から取り出したのは一日経過してから。鞄の中の閉空間で夜を越した折り畳み傘は当然乾くわけもなく、濡れたまま、湿ったままの状態で取り出されたのです。濡れているかどうかという表現ではなく「冷ゆる」といったところに、より傘の体温のようなものが想起されるでしょう。

その傘はまるで「死者の腕」のようであったというのです。

この比喩は過剰といえば過剰かもしれません。折り畳み傘と腕は似ているようでありながらもやはり別物であるからです。しかし、実際に死者の腕をつかんだことのある人の記憶と、このときの冷えた傘の感触が非常に近しく感じられたというのは、形状以上に、「冷ゆる」というその温度においてなのでしょう。

歌を最後まで読み切ったとき、鞄の中から死者の腕を取り出すような光景が重ね合わされて、読み手に訪れるような感覚に陥ります。怖ろしさというのではなく、ただただ静かで冷たい時間と感触だけがそこに残り続けるような印象を覚えます。

生きている者のつかむ腕と、死んでいる者のつかまれた腕が一体となって浮かび上がり、たちまちに記憶に刻みつけられてしまう一首です。

鞄と折り畳み傘
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