2024年11月– date –

〈玻璃窓の外には波の無数の目　海浜ホテルのカーテンのむこう〉（松平盟子『うさはらし』）

〈生きてゐる間はせめて思ひたい他の生き方あるかもしれぬ〉（香川ヒサ『ヤマト・アライバル』）

〈朝戸出の風硬くして今日のわれ昨日のわれを引き継ぎにゆく〉（島田幸典『駅程』）

〈鉄橋は無数のネジに締められて線路の音は調律される〉（竹内亮『タルト・タタンと炭酸水』）

〈聖堂をもとおる蔦のくれないは無数の舌のひらめくごとし〉（島田幸典『駅程』）

〈けふの疲れに軀はしづみざらざらと無数の星に覆はるる夜〉（横山未来子『水をひらく手』）

〈あかあかと腕に無数の湿疹のひとつぶひとつぶが痒がりてゐる〉（西村美佐子『猫の舌』）

〈太陽の無数の命生む力無数の命滅ぼす力〉（香川ヒサ『ヤマト・アライバル』）

〈照らされた無数のほこりしばらくは息をするのを我慢してみる〉（木下龍也『つむじ風、ここにあります』）

〈五弁の桜、五つに分かれ散りおれど無数のなかにまぎれてゆきぬ〉（吉川宏志『石蓮花』）

〈この世には子どもも大人もいやしない無数のただの私がいるだけ〉（雪舟えま『はーはー姫が彼女の王子たちに出逢うまで』）

〈ひらひらと無数のリボンは誰がために揺れてゐるのか扇風機売り場〉（知花くらら『はじまりは、恋』）