傘の歌 #21

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傘の短歌

生まれた瞬間懐かしくなる歌のように駅の周りで傘は開いた
堂園昌彦『やがて秋茄子へと到る』

堂園昌彦の第一歌集『やがて秋茄子へと到る』(2013年)に収められた一首です。

傘の歌ですが、一読”光”を感じる歌だと思います。

それは「生まれた瞬間」「懐かしくなる」「開いた」といった語が並ぶことによるものでしょうか。場面としては雨に傘を差している情景を詠んだものですが、上句の喩によって、日常的な場面に留まらない美しさを感じます。

「生まれた瞬間懐かしくなる歌」は助詞が省略されていますが、「生まれた瞬間」が「懐かしくなる」というふうに補って読みたいと思います。読み方によっては「生まれた瞬間」の後、一字空けのような感じで読む捉え方もあるかもしれませんが、今回は瞬間が懐かしくなるというふうに採りたいと思います。

自分が生まれたときの記憶が鮮明な人というのは少ないでしょうが、この一首はその「生まれた瞬間」に触れています。「生まれた瞬間」が「懐かしくなる歌」とは一体どんな歌でしょうか。具体的な歌かもしれませんし、輝かしい音に満ちた想像上の歌かもしれません。とにかくそれは光と明るさに満ちた歌のように思います。

さて下句では、そんな「懐かしくなる歌のように」傘が開いた様子が表れます。それも「駅の周り」の出来事です。この「傘」は特定の一本というよりは、複数の、あるいは無数の傘が開いたイメージが浮かびます。それは「駅の周り」という言葉から、一定の範囲を保った状況が提示されていますし、駅は人の行き来が特に多い場所であるところから、いくつもの傘が開いた場面を想像してしまいます。

言葉選びも特徴的で「傘は」の「は」の選択によるフォーカスの仕方、また”差した”ではなく「開いた」という語の選択によって、傘の機能から一歩進んだイメージへ飛躍できるような丁寧な詠みぶりが窺えます。

もちろん「開いた」は、上句の雨のきらめきや明るさのイメージにも結びつき、傘が開くことがまるで誕生を祝福しているような、そんな幸福感に満ちた様子が、この一首から展開されているのではないかと感じます。

具体的な人の姿は背景に遠のき、どちらかといえばイメージ上の明るさや喜びといった場面が前面に出た歌だと思いますが、読むたびに心が満たされる、そんな一首で印象に残ります。

傘
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