鑑賞– appreciation –

〈じきに雨やがて戦争ばらばらとクロワッサンは壊れるばかり〉（北山あさひ『崖にて』）

〈コーヒーの湯気のむかふに逆光の顔がある表情は見えない〉（林和清『去年マリエンバードで』）

〈無糖ブラック胃に広げつつ風強き明けの船出を諦めにけり〉（黒瀬珂瀾『ひかりの針がうたふ』）

〈昼休み終わらんとして缶の底ねばつくようなコーヒーを飲む〉（吉川宏志『石蓮花』）

〈ひと息にキリマンジャロを飲みいるは先程はつか怒りし咽喉〉（中川佐和子『海に向く椅子』）

〈さて義務をはたさなきゃコーヒーを買いさて義務をはたさなきゃコーヒーを飲んだら〉（永井祐『日本の中でたのしく暮らす』）

〈手を腰にやってコーヒー牛乳を飲んではみても傷もつ心〉（工藤吉生『世界で一番すばらしい俺』）

〈これでいいんだ　ブラックコーヒー飲んだあと歯磨いたらいい味がした〉（山田航『寂しさでしか殺せない最強のうさぎ』）

〈学年の会議でもらったチョコレートぼんやり溶けて夏は近づく〉（千葉聡『海、悲歌、夏の雫など』）

〈キットカットのかけらを運んでゆくぼくは蟻だとおもう蟻だあねぼくら〉（斉藤斎藤『渡辺のわたし』）

〈アメリカの碁石は色が変えてあるアメリカ的な理由によって〉（松木秀『5メートルほどの果てしなさ』）

〈メールにて「連載原稿書き直しのお願い」が来る　胸に重く来る〉（千葉聡『海、悲歌、夏の雫など』）