サイクリング– tag –

〈白き霧ながるる夜の草の園に自転車はほそきつばさ濡れたり〉（高野公彦『汽水の光』）

〈ママチャリが駅に止められママも子も午前十時のここにはをらず〉（田村元『昼の月』）

〈自転車がなぜ倒れぬかを今ここでこの夏空の下証明してみよ〉（永田淳『1／125秒』）

〈自転車のカゴを理想のかたちへと押し戻してるときに轢かれた〉（小坂井大輔『平和園に帰ろうよ』）

〈鈍痛は遠くわたしにちらついて錆の匂いのかおる自転車〉（山崎聡子『青い舌』）

〈自転車の重さも軽さも楽しくて半月のような町をゆくのさ〉（雪舟えま『はーはー姫が彼女の王子たちに出逢うまで』）

〈真正面に朝日をすえてチャリをこぎようやく人の影となりゆく〉（佐佐木定綱『月を食う』）

〈老人の漕ぐ自転車が歩くよりはるかに遅いのに倒れない〉（鈴木晴香『心がめあて』）

〈自転車のベルをかなぶん柄に塗るこの街のひと少しかわいい〉（山田航『寂しさでしか殺せない最強のうさぎ』）

〈自転車に乗ってるオレと目が合ってボール蹴るのをやめた少年〉（工藤吉生『世界で一番すばらしい俺』）

〈月までは行けないことは知っているそれでも強く自転車を漕ぐ〉（伊波真人『ナイトフライト』）

〈サドルには日照雨が残り手の甲でかるく拭って漕ぎだすまでだ〉（榊原紘『悪友』）