咲き誇るシクラメン見ゆこの世には主役となれる人生もある
佐藤モニカ『夏の領域』
佐藤モニカの第一歌集『夏の領域』（2017年）に収められた一首です。
シクラメンは秋から春にかけて咲く花ですが、この歌では「シクラメン」が「咲き誇る」様子が描かれています。何色のシクラメンかについては触れられていませんが、色鮮やかな赤系統の色を想像しました。
シクラメンの景である前半に対して、歌の後半は心情が述べられています。
「この世には主役となれる人生もある」とは、何とも肯定的な言葉ではないでしょうか。
総合的に自分の人生を見た場合、「主役となれる」瞬間というのはそう多くないかもしれません。自分の周りを見ても、あるいはテレビの向こうを見ても、憧れる人や尊敬する人は存在するのですが、自分自身がその位置に立てるかというとなかなかそうはいかないでしょう。
ただ「主役」というのは、何もこのような華やかなポジションだけをいう言葉ではないと思います。
この歌の「シクラメン」においてもそうでしょう。花の種類の中で華やかで主役をはれるような花はもっと他にもあるでしょう。
しかしこのシクラメンは「咲き誇る」ところに、輝かしさと力強さを感じるのです。シクラメンはシクラメンという存在として咲いている、咲き誇るさまを「主役」と呼ぶならば、どのような存在であったとしても、主役になれるということではないでしょうか。
自分自身を振り返って、自分は憧れの人や尊敬する人と全く同じようにはなれないかもしれませんが、自分という存在の中で最大限に行動し、最大限に生きることができれば、それはすでに「主役」なのかもしれません。
再び「この世には主役となれる人生もある」という言葉を見つめれば、力強さとともにあたたかさ、やさしさを感じさせてくれるように思います。シクラメンの鮮やかさから始まる未来は、きっと明るさに満ちた人生へ続くと思わせてくれる一首です。
ポチップ
