人生の歌 #176

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人生の短歌

「痛くない痛みはきっと人生を前借りしてきた利息分なの」
宇都宮敦『ピクニック』

宇都宮敦の第一歌集『ピクニック』(2018年)に収められた一首です。

鍵括弧で括られた歌であり、主体が誰かに発した言葉でしょうか、それとも誰かが主体に発した言葉でしょうか。

「人生」の「前借り」という着想が面白いと感じますが、このような表現をさらっと会話に溶け込ませることができるのが素敵だと思います。

この前借りは、過去未来現在のどの時制の前借りとして読むかで読みが変わると思いますが、ここでは過去に人生をたくさん前借りしてきたと読みたいと思います。

つまり、過去につらい人生を多く引き受けてきたというイメージです。過去に色々と引き受けてきた「利息分」として、今恩恵を受けられるという感じです。

では、その恩恵である利息分は何かというと「痛くない痛み」と詠われています。「痛くない痛み」も考えれば考えるほど不思議な痛みです。

通常、痛いから痛みと呼ぶのだと思いますが、ここでは痛くないのに痛みだと認識している点が興味深く感じます。そもそも痛みを感じることは、利息分に当たる恩恵なのでしょうか。痛みといえば、どちらかというと利息分よりはマイナス分というイメージがあります。ただし、ここでの痛みは単なる痛みではなく「痛くない痛み」であることから、やはり利息分なのでしょう。

一般的に痛みと思われる出来事も、痛いと思うからつらいのであって、もし痛いと思わなければ、それはつらい出来事にはなり得ないのでしょう。痛いからつらいのであって、痛くなければ、それはつらいどころかむしろありがたいものとして存在するのかもしれません。

いや、「痛くない」というのは、過去に何度も同じような痛みを味わってきたからこそ、もうその痛みに対して免疫ができているということかもしれません。その痛みに麻痺しているといえばいい過ぎでしょうが、その痛みに対して対処できるというか、もう悩まなくていい状態になっているのではないでしょうか。

今現在、痛みに対して痛くないと感じることができるのは、人生を前借りしてきたからなのでしょう。前借りで多くを引き受けてきたからなのでしょう。過去には多く苦しんで痛みを味わったかもしれませんが、その恩恵として、今現在はその痛みを痛くないものとして捉えられるのでしょう。

人生の痛みの渦中にいるときは、つらく苦しいものですが、そういうときこそこの歌を思い出してみるのはいかがでしょうか。ああ、今は人生の痛みの最中にいるけれど、この痛みは利息を溜めているときなのだと思えれば、少し今の痛みが和らぐかもしれません。

状況は変わっていないのに、捉え方が次第で、自分の人生を少し軽くすることができるのではないでしょうか。

人生を「前借り」や「利息分」という表現で捉えたところが興味深い歌で、鍵括弧で括られたたったひとことですが、非常に深い思いが込められていると感じる一首です。

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