鑑賞– appreciation –

〈空白を忘れしやうにゑみあひて髪型の変はりたるは訊かざり〉（横山未来子『水をひらく手』）

〈丈のみじかい夢をはおって陸橋の上へあなたの手品見にゆく〉（服部真里子『遠くの敵や硝子を』）

〈台風はテレビの中で進みゆく赤いきつねと緑のたぬき〉（花山周子『屋上の人屋上の鳥』）

〈帰ったらアプリで麻雀すると思うドラッグストアに安いお豆腐〉（平出奔『了解』）

〈あなたより先に死にたしそののちのあなたの死後にふたたびを死ぬ〉（大森静佳『ヘクタール』）

〈掛け紙もリボンも金色　初売りのモールの店にゴディバを選ぶ〉（鯨井可菜子『アップライト』）

〈昧爽のＳＡに星入りのサイダーを売る自販機ありき〉（鈴木加成太『うすがみの銀河』）

〈レプリカを何体も置きあとずさるさういふことだ生きのびるとは〉（山田富士郎『羚羊譚』）

〈僕らは朝に牛乳を飲む　骨壺に収めるための骨を育てる〉（田村穂隆『湖とファルセット』）

〈幸せは前借りでありその猫を看取ってやっと返済できる〉（仁尾智『仁尾智猫短歌集　いまから猫のはなしをします』）

〈ママチャリが駅に止められママも子も午前十時のここにはをらず〉（田村元『昼の月』）

〈無駄なことばかりしようよ自販機のボタン全部を同時押しとか〉（岡本真帆『水上バス浅草行き』）