フルムーン 好かれないこと落ち度ではないはずでしょう誰にとっても
中村森『太陽帆船』
中村森の第一歌集『太陽帆船』(2024年)に収められた一首です。
自分が好意を寄せる相手が、自分のことを好きでいてくれたら、それはすばらしいことだと思います。しかし、なかなかそううまくいくケースばかりではありません。自分は好きでも相手は自分のことが好きではない、あるいは逆に相手が自分のことを好きでも、自分は相手のことがそれほど好きではないという場合もあります。
もちろん恋愛に限った話ではなく、普段の人間関係においても同じことはあるでしょう。たとえば、学校や職場において、親しくなる人も入れば、できれば関わりたくないと思う人もいます。また、他人から自分に対しては、嫌われるよりは好かれる方が随分と生きやすくはなると思いますが、すべての人から好かれるということはまずないでしょう。
掲出歌は、「好かれないこと落ち度ではないはずでしょう」と詠っています。ついつい、みんなから好かれる存在にならないといけないとか、好かれないことが悪いことのように考えてしまいがちですが、決してそんなことはないと気づかせてくれます。
「フルムーン」とあるので、満月の日でしょうか。満月の力強い引力がこの歌全体に充ちているように感じられるのではないでしょうか。
ただ、すべての人が満月をきれいと感じるわけではなく、満月がそれほど好きではない人もいますし、半月や三日月の方が好きという人もいるでしょう。同じように、すべての人が特定の誰かを好きであるはずはなく、好きと感じる人もいれば嫌いと感じる人もいるわけです。
ですから、「好かれないこと」は「落ち度ではない」ですし、そう思えれば、どれだけ心が楽になるでしょうか。
この歌は主体が主体自身にいいきかせているような印象があると思います。実際、主体にとって「好かれない」と感じる状況が訪れたのでしょう。でも、そこで自分を否定してしまうのではなく、それは「落ち度ではない」と、好かれなくても自分は自分でいいのだと認めているところに惹かれます。
フルムーンという明るい夜だからこそ、「好かれないこと落ち度ではないはずでしょう誰にとっても」が煌々と、またやさしく同時に力強く照らし出されるような雰囲気があるでしょう。フルムーンの光は、主体が好かれようが好かれまいが、主体というひとりの存在がそこにいるだけで充分だというように、あたたかく包み込んでいるのではないでしょうか。
気が落ちたときこそ、ここに立ち戻りたいと思わせてくれる一首です。

