人生の歌 #183

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人生の短歌

片づけて寝るのですつよい感情ももとあつた場所へかならず戻し
米川千嘉子『滝と流星』

米川千嘉子の第四歌集『滝と流星』(2004年)に収められた一首です。

眠りの前のひとときの面白い場面を詠った歌だと感じます。

一日の終わりとして眠りは訪れます。そのときにどのような気分で眠ることができるのかで、その日一日がどういう日であったかが示されているといっていいかもしれません。

この歌では「つよい感情」を抱いていたことが窺えるのではないでしょうか。

それは、つらい、かなしいといった負の感情かもしれませんし、反対に、うれしい、たのしいといった正の感情かもしれません。いずれにしても、感情をあまり感じない一日ではなく、振れ幅が大きい感情を抱いた日だったのではないでしょうか。

そのような感情も「もとあつた場所」へ片づけるように戻してから寝ると詠っています。

眠りに落ちるのに、「つよい感情」は確かに邪魔になるかもしれません。「つよい感情」を抱いたままではゆっくりと眠っていくことができないでしょう。ですから、「片づけて寝る」のでしょう。

また「つよい感情」はそのまま夢の中へももちこされるかもしれません。そうなると、プラス方向であってもマイナス方向であっても夢は賑やかになり、安眠からはほど遠いものになってしまうのではないでしょうか。

「片づけて寝るのです」といういい切りが心地よく響いてきますが、不特定の誰かに向かっていっているようにも思いますし、自分自身に対していっているようにも思えます。

感情をもとあった場所に戻す行為は、その日一日を思い返し、振り返る作業にほかならないのではないでしょうか。

一日を振り返って、その日起こった嫌なことを思うのではなく、その日あったよかったことを思い返し、いい気分で寝る方がいいでしょう。

どうせ眠りにつくなら、「つよい感情」は片づけたとしても、ゆるやかで小さな心地よい感情をもったまま眠りにつきたいものです。

主体も「つよい感情」はもとあった場所に「かならず」戻すのでしょうが、感情のすべてを片づけるわけではないと思います。

もとあった場所に戻さなかった、ほんの小さな感情をもって眠りにつくのかもしれません。その小さな感情が、いい感情であれば、きっといい眠りになるのではないかと思います。

寝る前の感情の取り扱いに注目した歌として、とても興味深い一首だと感じます。

『滝と流星』

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