テーブルの足に無数の指紋ありわれの知らざる愛撫あるらし
駒田晶子『銀河の水』
駒田晶子の第一歌集『銀河の水』(2008年)に収められた一首です。
テーブルの足に無数の指紋があるという認識が興味深く感じられます。
テーブルの足を触っていたのは誰でしょうか。テーブルをもちあげて移動するときについた指紋かもしれません。あるいは、背の低い子どもが遊んでいてついた指紋かもしれません。
誰の指紋かは具体的には示されていませんが、「われの知らざる」とあるので、自分が触ってついた指紋ではなく、自分ではない誰かが触ってついた指紋と考えるのが自然でしょう。
さて、それを「愛撫」と捉えたところに、この歌の独自性が表現されていると思います。「愛撫」と表現されることにより、官能的な雰囲気を帯びてくるでしょう。
テーブルの足についた指紋はひとつではなく無数であり、何度も何度も愛撫された様子が窺えます。この指紋が大人のものであれば、より官能度合は強まるかもしれませんが、子どもの指紋であれば、官能的というよりもむしろ無邪気さややさしさが前面に出てくるイメージが強く感じられるでしょう。
いずれにしても「われの知らざる」ところであるのがポイントのような気がします。自分が知らないからこそ、無数の指紋がつけられたタイミングがはっきりとはせず、一層謎めいた印象を与えてくれるのではないでしょうか。この指紋について、もしも自分がすべてを知っているなら、ここまで想像を駆り立てられることもなかったでしょう。
「無数」という数なき数への想像、テーブルの足というモノに対する「愛撫」という表現、そしてそれらがもたらす未知の時間への思いが膨らんでいき、読めば読むほど、定まった部分ではなく定まっていない部分、つまり余白がどんどん増えていくような一首なのではないかと感じます。

