無数の歌 #29

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無数の短歌

夜空より無数におりてくる六花みな結晶に酸素抱くといふ
高野公彦『河骨川』

高野公彦の第十三歌集河骨川(2012年)に収められた一首です。

「六花」とは、雪の結晶が六角形をしているところに由来する、雪を指す美しい言葉です。

「夜空」ですから、時間帯は夜です。日中とは違い、空はもう暗闇に包まれていますが、その暗さの中から真っ白な雪が無数に降っている場面です。「おりてくる」という表現が使われていますが、降っていると表現するのとは異なり、雪の一片ひとひらに命のようなものが宿り、自らの意思で降りてくるような印象を受けます。

雪の結晶の成分は水であり、化学式でいえばH2Oです。水素原子2個と酸素原子1個が組み合わさり、水を構成しています。このように水は酸素原子を含みますから、「六花みな結晶に酸素抱く」は化学的な視点からも確かにその通りでしょう。

しかし、ここでは化学的な視点を前面に出したいわけではありません。酸素を含む雪の結晶を、「六花」や「酸素抱く」という表現で詠っているところに魅力があり、このような表現だからこそ生まれる詩的なイメージが読んでいてとても心地よく感じられるのではないでしょうか。

雪のひとひらが一個の酸素を抱いて、夜空から降りてくるのです。それもひとつの雪ではありません。無数の雪が次から次に、主体のいる地上へとやってくるのです。人が生きるのに酸素が必要なように、雪が存続するためにも酸素が必要であり、すべての雪片が酸素を抱いている様子はとてもやさしい雰囲気が感じられるでしょう。まるで小さな天使がやさしく降りてくる、そんなイメージさえも浮かんでくるようです。

夜空の暗さに対する雪の白さ、そして無数の酸素を抱いた雪が美しく詠われ、とても印象に残る一首です。

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