エレベーターの歌 #14

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エレベーターの短歌

エレベーターホールのすみっこ飛ばされたベランダ用のスリッパ一つ
東直子『春原さんのリコーダー』

東直子の第一歌集春原さんのリコーダー(1996年)に収められた一首です。

「ピンク・スノウ」という一連にある歌ですが、この一連には次のような歌が収められています。

北風を縦割りにして開きつつあちこち痒い子を連れ園へ

霜柱踏みつつゆけば今朝もまた園長先生がたっていました

子供らが散らかした部屋を抜け出して何を探そうとしていたのだろう

子どもを保育園か幼稚園に送り迎えしている場面を含む日常が詠われています。ですから、掲出歌のエレベーターホールは、その園から戻ってきた自分が住むマンションのエレベーターホールを指しているのではないかと思います。

エレベーターホールの隅に、本来そこにあるはずのない「ベランダ用のスリッパ」がひとつあることに気づいたのでしょう。エレベーターがやってくるのを待っている間、何とはなしに見ていると、偶々エレベーターホールの隅のスリッパに目が入ったのかもしれません。「すみっこ」という具体的提示が、スリッパがそこにある不思議さを一層強めているように思います。

しかも、スリッパは一足そろった状態ではなく、おそらく片方だけだったのでしょう。「一つ」は一足ではなく、片方だけの「一つ」を指していると捉えるのがいいでしょう。ベランダ用のスリッパが片方だけあること自体、このエレベーターホールの隅をやや異空間めいたものとして、感じられたのではないでしょうか。

「飛ばされた」とありますが、このスリッパをこの場所に飛ばしたのは誰でしょうか。子どものいたずらかもしれませんし、あるいは強風かもしれません。それとも謎の力によって飛ばされたのかもしれません。掲出歌は、子どもを詠った一連に置かれた一首ですから、子どもが飛ばしたと考えるのが自然かもしれませんが、この歌では誰が飛ばしたとは明示されていないので、誰によってや何によってを色々と想像してみる楽しさはあるかと思います。

エレベーターを直接詠った歌ではありませんが、エレベーターを待つ間のひとときが、エレベーターという空間、そしてベランダ用スリッパという具体と関係しあいながら、立体的に立ち上がって伝わってくる一首ではないかと感じます。

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