短歌クイズ Q.403

一年を身体で表すならば、秋は尻だ。尻は好きだな

掲出歌は、しんくわの第一歌集『しんくわ』の連作「梨」に収められた一首です。

「一年を身体で表す」という発想がまず面白いと思います。ここでは四季のひとつ「秋」を喩えているわけですが、「秋は尻だ」といいきっています。

秋を身体で表す場合、それぞれの人がもつ秋のイメージに重ね合わせて身体のパーツを選ぶでしょうが、ここでは「尻」が選ばれているのです。秋を形容するにするのに「尻」というのは初めて聞きました。

どのあたりが「尻」なのかを考えてみたのですが、秋そのものというよりも”果物の秋”からくる果物の形状と「尻」が重ね合わせられているのではないかと思います。

それはこの一連の題が「梨」であることとも関連しているでしょう。

秋の果物といえば、梨の他にもりんご、桃、柿、ぶどう、いちじく、ざくろなど色々とあります。そしてこれらの果物は丸みをもっていて、曲線の美しさを湛えています。

丸み、曲線と人間の身体をリンクさせたとき「秋は尻」につながっていったのではないかと思うのです。

そして結句が「尻は好きだな」です。ここが作者が本当にいいたかったことなのでしょう。エロティックというのではなく、むしろさっぱりとしたいいっぷりです。

この結句をいいたいがために「秋は尻だ」の展開があったといえますが、一首を通して読むと単に身体としての「尻」が好きだというだけに留まらず、秋の果物および秋そのものがその背後に重ね合わさっており、複数の層とスケールの大きさを感じる一首になっているのではないでしょうか。

簡潔な言葉で成り立つ一首ですが、非常に奥行きを感じる歌だと思います。