ドクターがマジシャンだった医務室は赤のプリザーブド・フラワー群
丸田洋渡『これからの友情』
丸田洋渡の第一歌集『これからの友情』(2025年)に収められた一首です。
「プリザーブド・フラワー」とは、生花にプリザーブド加工と呼ばれる特殊な加工を施し、みずみずしさと柔らかい風合いを長期間保つようにした枯れない花のことです。記念日やお祝いのときに贈られることも多いでしょう。
さて、この歌は、二句切れの歌と読むか、区切れなしの歌と読むかで若干ドクターの状況が変わるかもしれません。
二句切れと見れば、ドクターつまり医師のもうひとつの側面としてマジシャンの顔をもっていることに、主体が気づいた印象が強く感じられるのではないでしょうか。
一方、句切れなしの歌と見れば、「ドクターがマジシャンだった医務室」となるため、この「だった」は気づきというよりは、過去形の要素が強く感じられ、ドクターが、医師業を本格的にやる前にマジシャンとして生計を立てていたケースが考えられるのではないでしょうか。
いずれの場合も、このドクターはマジックの腕をもっていることは確かです。この医務室においては、ドクターとして医師業に専念しているのでしょうが、主体はそこに「赤のプリザーブド・フラワー」を見たのでしょう。「群」とあるので、多数の赤色のプリザーブド・フラワーが医務室にはあふれていたのでしょう。
花が出現したり、花の色が変わったりするフラワーマジックは、手品の中でも人気でしょう。この場合、つくりものの仕掛けのある花が使われるケースが多く、プリザーブド・フラワーがマジックで使われることは少ないかもしれません。
ですから、この歌の医務室にあるプリザーブド・フラワーは、このドクターがマジックで直接使用したものではないのかもしれません。純粋に患者や誰かからの贈り物を医務室に飾っているだけかもしれません。
しかし、マジシャンの顔をもっているという背景を知ったとき、医務室にあるプリザーブド・フラワーは、実際マジックに使われたどうかは関係なく、想像の中において、このドクターが演じているマジックと関連づいていったのでしょう。
医務室のその場ではマジックはまったく行われていないにもかかわらず、マジシャンの恰好をしたドクターと赤い花を鮮やかに操り観客を魅了する姿が立ち上がってくるのではないでしょうか。
生花はすぐ枯れてしまいますが、プリザーブド・フラワーであれば何年も枯れずに飾ることができます。その枯れない様子が、マジシャンの華やかな姿をいつまでもその場に留めておくような印象を与えてくれるのではないでしょうか。
「マジシャン」と「プリザーブド・フラワー」という言葉の融合がもたらす喚起力が強く感じられる一首だと思います。

