白くひかる無数の小部屋を目に映しエクセルでつくる販売計画
ユキノ進『冒険者たち』
ユキノ進の第一歌集『冒険者たち』(2018年)に収められた一首です。
「エクセル」は、マイクロソフト社が提供する表計算ソフトMicrosoft Excelのことを指しているでしょう。WordやPower Pointなどとともに、世界中のパソコンユーザーによく使われるソフトウェアで、現在表計算ソフトといえばExcelといっても過言ではないでしょう。
さて、エクセルを起動すると、画面にはセルと呼ばれるたくさんの白く四角い枠が並んで表示されます。このセルが縦横にどこまでも続いているのですが、それを「白くひかる無数の小部屋」と表したところが、この歌の最大のポイントだと思います。
実際は、現在の最大行数は1,048,576行、最大列数は16,384列となっており、セルつまり小部屋の数は、これら縦横を掛け算しただけの数、つまり有限であるわけです。しかし、全小部屋をパソコンの一場面に一度に表示することはできないでしょうし、有限といってもエクセルを使用する側から見れば、すべての小部屋を使い切ることはまずなく、その数は無数に等しいということなのだと思います。
また「白くひかる」は液晶のバックライトにより照らし出された状態を表していると思いますが、「販売計画」をつくっている作業部屋自体、薄暗がりなのかもしれません。それによって、より小部屋が白くひかる様子が浮かんでくるように感じます。
小部屋にはひとつひとつ数字が入力されていくのでしょう。数字で埋まる小部屋もあれば、空白のまま何も入力されずそのまま残される小部屋もあるでしょう。
無数の小部屋であっても、そのひとつひとつを見れば、この販売計画にとっては小部屋はそれぞれ異なる役割をもっているのでしょう。役割をもった小部屋がいくつか集まったとき、この販売計画は完成するのではないでしょうか。
エクセルを起動した段階では、何も入力されていなかった小部屋も、時間の経過とともに数字が入力され、罫線が引かれ、装飾され、色がつけられしていくと、やがて「販売計画」と呼ばれる代物に変化していくわけです。そこには、人の手の介入、この歌では主体の介入があるわけですが、人の手の介入を前面に押し出さず、エクセルの小部屋を前面にして詠ったところに、この歌の特徴が感じられます。
エクセルのマスを”セル”と呼ぶのか「小部屋」と呼ぶのか、それだけの違いですが、その違いによってエクセルを見る目が変わってくる、そんな一首なのではないかと思います。


