傘の歌 #25

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傘の短歌

かかげ持つ傘の角度を変へしとき少し異なる街が見えたり
小島ゆかり『獅子座流星群』

小島ゆかりの第四歌集獅子座流星群(1998年)に収められた一首です。

普段目にしている街の景色というのは、特に意識しなければ日々それほど変わるものではないのかもしれません。何となく風景が目に入っている、そんな場合が多いのではないでしょうか。

掲出歌では、雨の日に「少し異なる街」が目に入ってきた場面を詠み込んでいます。

差していた傘の角度を変えたとき、「少し異なる街が見えた」というのです。雨が強くなってきたから角度を変えたのでしょうか、それとも何か手のはずみで傘の角度が変わってしまったのでしょうか。

そのきっかけは書かれていませんが、傘の角度が変わったことは確かです。「変へし」とあるので、どちらかというと自らの意思で変えたような印象はあります。

さて、そのときに見えたのが「異なる街」なのですが、これは単純に傘の角度によって制限される視界が変わることから、「異なる街」が見えたと捉えることもできます。

ただもう少しいうならば、単に視界の制限云々ではなく、主体の意識が変わったことにより「異なる街」が見えたと捉えた方が歌としては広がりがあるように感じます。

おそらく街の側は何も変わっていないでしょう。晴れの日、雨の日の違いはあれど、いつもと変わらぬ街がそこにあるはずです。

その街に「異なる」部分を見いだしたのは、やはり主体の気持ちの変化なのではないかと思います。普段意識していなかった街が、自身の何らかの気持ちの変化に伴って「異なる」ものに見えたのでしょう。

歌中の「異なる街」は、街側が変化したのではなく、主体側の気持ちが変化したことにより、発生したものだと感じます。プラスの気持ちか、マイナスの気持ちかはわかりませんが、気持ちが変化したことだけは間違いないでしょう。その変化を街の変化に巧く転換したところに、この歌の魅力があるのではないでしょうか。

傘の向こう
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