生きる– tag –

〈押ボタン式信号と気付かずにここで未来をじっと待ちます〉（松村正直『駅へ』）

〈ひぢまくらして客を待つ信楽の狸もぐわんばらないを主義とす〉（吉岡生夫『草食獣 隠棲篇』）

〈たった今明らかなことはただひとつこの二十年ほどを死んではならぬ〉（永田淳『1／125秒』）

〈雷龍の国にてしのぐ霧雨の、此の人生が一度しかない〉（光森裕樹『鈴を産むひばり』）

〈駅前でもらうティッシュは二つまで　もてる荷物で生きてゆきます〉（高田ほのか『ライナスの毛布』）

〈また爪の半月ほどの後悔をしてゆくだろうきっと明日も〉（小島なお『乱反射』）

〈運命は自ら開くものとして黙って受けるものは宿命〉（岡部桂一郎『坂』）

〈進むため選ばなかった道の分豊かになるのが人生である〉（犬養楓『救命』）

〈お茶筒がふすりと閉まる瞬間もいつか死ぬって信じきれない〉（櫻井朋子『ねむりたりない』）

〈「幸せに暮らしましたが死にました。けれど死ぬまで幸せでした」〉（木下侑介『君が走っていったんだろう』）

〈生きたいと思えるようになるまでは生きると決めて膨らます肺〉（島楓果『すべてのものは優しさをもつ』）

〈生まれたくなかったなんて思わずに生きてこられたという僥倖〉（水野葵以『ショート・ショート・ヘアー』）