自動ドア開かないようにひらがなのくの字ですする煮干しラーメン
岡本真帆『水上バス浅草行き』
岡本真帆の第一歌集『水上バス浅草行き』(2022年)に収められた一首です。
ラーメン屋の店舗の大きさについてまず見ておきたいのですが、大型チェーン店の場合はカウンターからテーブル席まで多数そろえられており、ゆったりと食べることができるほど広い店もあります。特に、郊外の店舗の場合は敷地にさらに余裕があるでしょうし、家族向けのラーメン店の場合は、やはりくつろげることを優先して考えて店が設計されているでしょう。
一方、チェーン店ではない個人が経営しているようなラーメン屋の場合、店舗の大きさはそれほど大きくないでしょう。大きくないどころか、狭いといった方が適切かもしれません。店によってはカウンターのみといったラーメン屋もあります。むしろ、カウンターだけというのがひとつのポリシーのように考えている店もあるでしょう。行列のできるラーメン屋の場合、行列ができるのは味がおいしいのはもちろんのこと、そもそも店内が狭く席数が少ないというのも多少影響しているでしょう。
さて、掲出歌ですが、主体はラーメン屋の入口付近の席に座ったのでしょう。本当はもっと店の奥の席に座りたかったのかもしれませんが、人気店など混んでいるラーメン屋の場合、自由に座る位置を決めることはできず、案内された席に座るしかありません。
入口は自動ドアであり、背中を伸ばすと自動ドアが反応して開いてしまうので、体を「くの字」に曲げて煮干しラーメンを啜っている場面だと思います。そう考えると、自動ドアの付近にまで席があるつくりなので、店内はあまり広くないのでしょう。
元々ラーメンを食べるときは前傾姿勢となり、大抵背中は曲がり気味になるものですが、自動ドアが開かないように、より一層体を曲げて食べているといったところでしょうか。
他の客から見ると、体を伸ばすことなく「くの字」で食べている姿は、よほど熱心にラーメンを啜っていると思われるかもしれません。けれどもその実態は「自動ドア」が「開かないように」であるところに、自他のギャップが垣間見られて、とても面白い歌となっています。
それにしても、「くの字」だけでもわかりそうなものを、わざわざ「ひらがなの」と冠しているところもこだわりの表れのようにも思います。「くの字」の強調とも、ダメ押しとも採れますが、一番はこの歌を読むときに一呼吸置く間合いのようなものを意識して挿入されたのではないかと感じます。
この歌を知った後にラーメン屋に入ったとき、入口付近の客の体の曲がり具合をつい見てしまう気がしています。


