君の名はモモイロフラミンゴぼくの名はメールのしっぽに書いておきます
杉﨑恒夫『パン屋のパンセ』
杉﨑恒夫の第二歌集『パン屋のパンセ』(2010年)に収められた一首です。
「モモイロフラミンゴ」に呼びかけているような場面でしょうか。あるいは脚の細い女性をモモイロフラミンゴに喩えているのかもしれません。
m音を多く含んだ「モモイロフラミンゴ」という名前が、やわらかくあたかかく感じられます。「君の名は」とまずははっきりと相手の名前を提示しています。
それに対して「ぼくの名」については、名乗ったのではありません。どうしたのかというと「メールのしっぽに書いておきます」と展開されていくのです。
「メールのしっぽ」は、メールの最後の部分を指すのでしょうが、ただの「メール」に書くと詠われるのではなく、「メールのしっぽ」に書くというところが、何とも楽しいではありませんか。
「ぼくの名」はその場で名乗ってもよさそうですが、あえて名乗らないことで、溜めの時間を設けているような感じでしょうか。でも名乗らないわけではないので、秘密主義というのとは違うでしょう。隠し通すわけではないけれど、すぐ名乗るわけでもない。「ぼくの名」の知らせ方は、「メールのしっぽ」に書いておくというところに、主体が相手を楽しませようとするエンターテインメント性のようなものを感じます。
「メール」という日常における一場面かもしれませんが、「モモイロフラミンゴ」という名前の選択、そして「メールのしっぽ」という愉快な表現があり、独特の世界が展開され、読んでいて楽しく印象に残る一首です。