パンの歌 #12

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パンの短歌

好きそう、とあなたが買ってきてくれるパンことごとくわんぱくなパン
toron*『イマジナシオン』

toron*の第一歌集『イマジナシオン』(2022年)に収められた一首です。

最近は、おしゃれなパン屋が街中に増え、テレビや雑誌などで特集が組まれることも多くなったように感じます。オーソドックスなパンから、アイデアあふれるパンまでいろいろなパンが売られています。

昔と比べて、パンの値段も上がってきました。一個百円という時代は、かなり昔のことでしょう。値段が上がってきたのは、原材料の高騰、人件費の増加はもちろんありますが、それに加えて、ちょっといい素材を使った高級でおしゃれなパンが増えてきたという点もあるのではないでしょうか。あえて高級路線でいくパン屋もあります。パン一個が、ケーキ一個とほぼ変わらない値段で売られていることもあるでしょう。

さて、掲出歌に登場するのは、高級パンではなく「わんぱくなパン」です。

「わんぱくなパン」という表現がとても魅力的です。「わんぱく」と「パン」は日常会話では通常組み合わせることのない言葉だと思いますが、「わんぱくなパン」といわれると妙に納得し、一度聞くと忘れられないフレーズです。

そんなパンは、「あなた」が私に対して「好きそう」だよねと思って買ってきてくれるパンなのです。

ここでは、主体が「好き」なパンではなく、主体が「好きそう」なパンというところがポイントでしょう。つまり「あなた」から見た主体のイメージが、パンを通して語られているのです。「わんぱくなパン」と主体のイメージが重なって見えてきます。

主体を「わんぱくなパン」のイメージで捉えているということは、すなわち主体自身が「わんぱく」寄りであると、「あなた」は見ているのかもしれません。単刀直入にいってしまえば、「わんぱく」だから「わんぱくなパン」が好きでしょうということでしょうか。

「ことごとく」という一語も見逃せず、この一語があることで、例外なく「わんぱくなパン」であること、そしてそのイメージが主体へ続いていることが見てとれます。

実際、主体が「わんぱくなパン」が好きかどうかはわかりません。もしかしたら、「わんぱく」ではないパンが好きなのかもしれません。でも、パンが何かよりも、「あなた」が「好きそう」と判断して買ってきてくれた、その事実に対しては、感謝しているのではないかと思います。

主体の、あきれているような、うれしいような、さまざまなに入り交じった感情を感じてしまいますが、二人の間の関係性は決して悪くはないでしょう。むしろ、好ましい雰囲気さえ漂っています。

関係性の示唆としても、言葉そのものとしても、「わんぱくなパン」が活きた一首だと思います。

パン盛り合わせ
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