【短歌×人生】人生を1mmでもよくしたい 【関係⑥】やさしくすれば自分が潤う

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【短歌×人生】人生を1mmでもよくしたい 【関係⑥】やさしくすれば自分が潤う
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人生を1mmでもよくしたい」の第27回(「関係」の第6回)です。今回は「やさしくすれば自分が潤う」と題して、やさしさについて見ていきます。

「やさしさ」と聞いて思い出す曲は、荒井由実の「やさしさに包まれたなら」です。

かなり昔の話になりますが、実は小学生の頃、初めて映画館で見た映画がスタジオジブリの「魔女の宅急便」(1989年7月29日公開)でした。そして、「魔女の宅急便」のエンディングテーマソングが、荒井由実の曲「やさしさに包まれたなら」だったのです。

初めての映画館だったので、すごく印象に残っていますし、そのときからこの曲もずっと親しんできたように思います。

カーテンを開いて 静かな木漏れ陽の
やさしさに包まれたなら きっと
目にうつる全てのことは メッセージ

荒井由実「やさしさに包まれたなら」より

今でも口ずさむと、当時の光景の断片が思い出されます。「やさしさに包まれたなら」はヒット曲であり、長年に渡って多くの人々に愛されている曲ですが、それを超えて、私にとって大切な一曲となっています。

さて、私の思い出はそれくらいにして、やさしさについて見ていきたいと思います。

唐突ですが「情けは人の為ならず」という言葉があります。意味は「人に親切にすれば、その相手のためになるだけでなく、やがてはよい報いとなって自分にもどってくること」です。

「やさしさ」も同じではないでしょうか。

誰かに対して、何かに対して、やさしく接すること。やさしさは、巡り巡って自分に返ってくるのではないでしょうか。

やさしくすれば自分が潤うのだと思います。それは、将来的に巡り巡って自分にいい出来事がやってくるということももちろんそうですが、やさしくすることは、もうそれ自体、自分を満たしていることなのではないでしょうか。

心がとげとげしい状態では、相手にやさしくできないでしょう。心穏やかな状態であることが、やさしくするうえでスタートになるのではないでしょうか。

そして、やさしくするのは何も誰か別の対象だけではありません。一番にやさしくしなければならないのは、自分自身ではないでしょうか。つい自分を後回しにしたり、優先順位を下げてしまったり、自分を犠牲にしたりするということもありますが、だからこそ、自分自身をやさしくしてあげることが一層大切になってくると感じます。

自分にも相手にもやさしさをもって接することができれば、自分も相手もそのやさしさに包まれるでしょう。

それでは、やさしさを詠った短歌を見ていきましょう。

優しさをもってすべてに接すればすべてのものは優しさをもつ 島楓果『すべてのものは優しさをもつ』

この歌、本当に素敵ですね。

「優しさをもってすべてに接すれば」から、接するときの柔らかさがありありと浮かんできます。もちろん物理的に何かに触れるということもあれば、直接触れなくても、誰かや何かと向かい合うという意味合いのどちらの場合もあるでしょう。

また特定の何かに対してだけ「優しさをもって」接するのではありません。「優しさをもって」接するのは「すべて」が対象となっているのです。ここに、もう主体のやさしさが存分に現れているのではないでしょうか。

「優しさをもって」接することでどうなったかといえば、接した「すべてのものは優しさをもつ」と展開されていきます。元々すべてのものは「優しさ」をもっていたのでしょうか。それとも「優しさをもってすべてに接すれば」という行為の結果、すべてのものは「優しさ」をもつようになったのでしょうか。

ものが元々「優しさ」をもっているかどうかはわかりませんが、接することで「優しさ」が立ち上がってくることだけは確かといえるのではないでしょうか。つまり、「優しさをもって」接するという行為によって、すべてのものはやさしく感じられたということです。

すべてのものに「優しさ」を感じられる心が、すでに「優しさ」に充ちているのではないでしょうか。この歌を読むと、こちらから対象に対する視線はもとより、対象からこちらに対する視線を感じられるでしょう。「優しさ」の呼応とでもいいましょうか、そんな感じを抱くのです。

あらゆるものが互いに「優しさをもって」接すれば、「優しさ」が増幅されていく世界になっていくのではないでしょうか。

「泣きながら寝たことはある?」全員が優しい人になれたらいいな 木下侑介『君が走っていったんだろう』

寝るときに、布団に入ってすぐに眠りにつける人もいれば、あれこれを考え事が膨らんできて、なかなか眠りにつけないという人もいるでしょう。ときには、「泣きながら寝た」経験のある人もそれなりにいるではないでしょうか。

この歌では「泣きながら寝たことある?」と問いかけています。特定の誰かへの問いかけのようにも思いますし、同時に不特定多数への問いかけにも思えます。読み手に問いかけているのかもしれません。

そして、下句では「全員が優しい人になれたらいいな」と詠われていますが、ここが一番いいたいところなのでしょう。「なれたらいいな」ですから、現状としては「全員が優しい人」にはなっていないという認識が窺えます。

さて、ここで考えてみたいのは「泣きながら寝たこと」と「優しい」とは関連するのでしょうか。

上句と下句の関わりの読み方は大きく二通りあると感じます。

最初の読み方です。この歌の上句と下句の関連性を重視して読むと、いつも泣きながら寝るような人、あるいは過去に泣きながら寝た経験がある人は、優しい人だという関係性が浮き上がってはこないでしょうか。つまり、この世の全員が、あるいは主体が関わる世界の範囲の全員が、泣きながら寝るような人であれば、きっと全員が「優しい人」になって、その世界全体もやさしさに包まれるのではないかと期待している状況です。つまり、泣きながら寝るのは、どこかやさしさとつながっている行為なのではないかと考えているのではないでしょうか。

もうひとつの読み方は次の通りです。

全員が優しい人ではない世界にいることに対して、主体自身がかなしくなって泣きながら寝ている場面を想像します。その泣きながら寝ている場面で、主体が一番に願っていることが「全員が優しい人になれたらいいな」なのです。こちらの方が自然な読みかもしれません。

「優しい人になれたらいいな」はもちろん自分自身も含めてのことでしょう。

今はまだ泣きながら寝るような日々ですが、いつかきっと寝るときに泣く必要のないときがくると信じて、「全員が優しい人になれたらいいな」を願い続けるのかもしれません。

ビル街をしんと光らす雨に問うやさしい人がやさしい理由 櫻井朋子『ねむりたりない』

「やさしい人」と思うような人は、あなたの身の周りにいるでしょうか。もしいるとしたら、その人はなぜ「やさしい」のでしょうか。

そもそも「やさしい」という言葉の定義も人によって異なるかもしれません。やさしさの程度は人によって違うでしょうし、何をもって、何をしてくれたら、どういう行動や態度をしてくれたらやさしいと呼ぶのかについて、万人共通の基準はないでしょう。ですから、自分はその人のことをやさしい人だと思っていても、別の人から見ればやさしい人には映らないということはあると思います。

でも、「この人、やさしい人だなあ」と感じることは実際あるでしょう。自分の基準でかまわないのですが、この人は「やさしい人」だと思う人がいるとして、その人が「やさしい」理由は一体何なのでしょうか。

もって生まれた資質でしょうか。生い立ちでしょうか。誰かからの影響でしょうか。過去のつらい経験がきっかけで育まれたものしょうか。

「やさしい人がやさしい理由」を問いかけているのです。問いかけているのは、人ではありません。「ビル街をしんと光らす雨」に対して、問いかけています。

人であれば、もっともらしい答えをくれるかもしれません。科学的視点から、理論立てて説明できる人もいるかもしれません。けれども、主体が知りたいのはそのような答えではないのだと思います。

知りたいのは一般論の答えではなく、もっと個別の答えなのではないでしょうか。ここで詠われている「やさしい人」も全世界に存在するやさしい人すべてを思い浮かべているわけではないと思います。もっと身近の、その人の顔が思い浮かぶような「やさしい人」なのではないでしょうか。

そうであれば、「やさしい人」全般に共通のやさしい理由を知りたいのではなく、その特定の「やさしい人」がやさしい理由を知りたいのです。

特定のその「やさしい人」に直接問いかければ、その人の「やさしい理由」がわかるかもしれません。でも、そうしないのは、そうできないからとも想像できます。直接聞くことができれば、これほど簡単なことはありませんが、そうできないから、雨に問いかけているのでしょう。

特定の人のやさしさがうれしいのか、それともやさしすぎて、かえって苦しいのかはわかりません。ただ、なぜその人はそんなにもやさしいのだろうかという思いだけは心にあるのです。

雨は答えをくれるでしょうか。

やさしいとは何なのかを改めて考えさせられる一首です。

いくらでもやさしくしたい 間違っていなかったこと教えてくれた 小川佳世子『水が見ていた』

「いくらでもやさしくしたい」のは、誰に対してでしょうか。「間違っていなかったこと教えてくれた」相手に対してでしょうか。また「いくらでもやさしくしたい」という思いに至ったのは、「間違っていなかったこと」を教えてくれたのが理由なのでしょうか。

この歌には、具体物が描かれていないため、詳細をはっきりさせることは難しいでしょう。逆にいえば、その分どう読むかは、読み手の自由に委ねられているともいえます。ですから、このあたりは想像するしかないのですが、ひとついえるのは、初句二句の「いくらでもやさしくしたい」のいい切りがとても強く響いてくるということです。

やさしくするのは一回だけではありません。「いくらでも」とあり、頻度も程度も最大限「やさしくしたい」という思いが伝わってきます。やさしくすることに対するためらいが見られません。この根底には、ある確信があるのでしょう。「間違っていなかったこと」がそれに関連しているのかもしれません。

「いくらでも」人に対してやさしくできるのは、裏切られるという心配がないからではないでしょうか。自分のやさしさを相手は全身で受けとめてくれるからではないでしょうか。あるいは、仮に裏切られたとしても、自分が行ったやさしさは揺るがないという強い気持ちが奥底にあるのかもしれません。どちらにしても、やさしくすることに対する躊躇はなく、ここには全力のやさしさを行える主体の姿が立ち上がってくるように思います。

妬ましき人ほどやさしくしてしまふ我に気づきぬ やさしくさせて 小川真理子『母音梯形トゥラペーズ

誰に対してもやさしくできる人はそう多くはいないかもしれません。

通常は、自分の家族や友人、仲のいい人、困っている人などに対して、やさしくしようと思うのではないでしょうか。一方、自分が嫌っている人、恨んでいる人、あまりいいと思っていない人に対して、やさしくしようという気持ちは湧いてこないかもしれません。

しかし、この歌はそのような一般的な考え方と違い、「妬ましき人ほどやさしくしてしまふ」と詠われています。これはなかなかにできることではないと思います。「妬ましき人」に対しては、やさしさよりも妬ましさが先行するでしょう。しかも、やさしさと妬ましさを比べる場合、ベクトルでいえば正反対を向いているようなものです。そうなると、一般的には「なぜ妬ましい人に対してやさしくしなければならないの」という思いが出てくるのはごく自然なことではないでしょうか。

ですから、通常は妬ましい人に対してやさしくはできないものでしょう。しかし、主体は妬ましい人に対してやさしくしてきたのです。しかも「妬ましき人ほど」なのです。主体は誰に対してもやさしくできるのかもしれませんが、特に妬ましい人に対して、より一層やさしくしてきたのです。なぜ、妬ましい人に対してやさしくできるのでしょうか。理由は詠われていないのでわかりません。

ただし、「我に気づきぬ」とあるので、これまで「妬ましき人ほどやさしくして」きたことに、あるときふと気づいたということはわかります。ひょっとすると主体も、妬ましい人に対するやさしさに自分自身はっきり認識していなかったのかもしれません。気がついたら、妬ましい人にやさしくしている自分がいたということでしょう。

結句に「やさしくさせて」とあるので、妬ましい人ほどやさしくしている自分に気づいた後も、やはり妬ましい人に対してやさしくしたいということなのです。

なぜ妬ましい人に対してやさしくできるのかという疑問は消えませんが、理屈云々ではなく、もうそのような状況があると素直に受け取る方がいいのかもしれません。やさしくすることから生まれる展開がきっとあるでしょうし、その展開はきっといいものであると、そんな予感が感じられる一首です。

最後に、やさしくすることについてまとめておきたいと思います。

相手からやさしくしてほしいと思うは、ごく自然な気持ちだと思います。誰でもやさしくされるとうれしいですし、心が落ち着くものでしょう。

でも、同じことを相手も感じているのです。相手も誰かからやさしくしてほしいと思っているのです。そうであれば、自分から相手に対して、やさしく接してみるのはどうでしょうか。そのやさしさは、相手に伝わり、相手がやさしさをもって自分に接してくれるかもしれません。

やさしくすれば自分が潤う。

結局、やさしくすれば、最終的にそのやさしさは巡り巡って自分が潤うことになるのだと思います。見返りを求めてやさしくしようとか、何も打算的な話をしているのではありません。本当に心からやさしくしたいという思いが湧き上がってきたら、その気持ちに素直になり、相手にやさしく接すればいいのだと思います。結果として、やさしさは自分に返ってくると信じています。

誰かに対して、何かに対してやさしくすることは、人生を1mmでもよくすることにつながるのではないでしょうか。

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