メールの歌 #10

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メールの短歌

君からのメールは君の声で読む 明日は天気になりますように
木下侑介『君が走っていったんだろう』

木下侑介の第一歌集君が走っていったんだろう(2021年)に収められた一首です。

メールは文字の伝達手段であり、受け手はその文字を読むことになります。

それは視覚情報といえますが、読むときに心の中で音読するケースもあるでしょう。決して声には出さないのですが、音や声を伴って読み上げるという経験は誰にもあると思います。むしろ、心の中に音や声を伴って読むほうが一般的かもしれません。文字情報をただ単に文字として読む、音や声は一切伴わないで読むというのは難しいかもしれません。

それほどに文字情報というのは、それを読むにあたり、音や声を無視できないものなのでしょう。

さて掲出歌は「君からのメール」を読んでいる場面ですが、「君の声で読む」姿が描かれています。「君の声で読む」というところに、「君」に対する思いが表出しています。

メールを読むとき、さきほど音や声を伴うという点に触れましたが、誰の声で読んでもいいわけです。多くは自分自身の心の声で読むのでしょうが、「君の声で読む」といわれると、確かに誰の声で読んでもいいのだと改めてその自由な様に気づかされます。

どうせなら、メールを読むときにテンションが上がる「声」で読んだほうがいいでしょう。この歌の場合は、それが「君の声」であるのです。

下句の「明日は天気になりますように」はメールの文面そのものというふうにも捉えることができますが、メールの文面そのものではなく、メールを読んだ後に主体が抱いた思いと捉えるほうがいいのではないでしょうか。

例えば「君」と明日会う約束があって、どこかに出かける場面を想像することもできます。出かけるのに雨よりも晴れを願う気持ちが、下句に表れていると見るのも自然ではないでしょうか。

「君の声」は実際に聞こえなくても、主体の心の中には「君の声」が確かに存在しています。そしてその心の中の「君の声」の存在が、君に対する主体の思い、やさしさ、愛情、つながりなどを感じさせてくれる一首だと思います。

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