ありとあらゆる部分を使い自販機のボタン同時に押せよ 叶うぜ
小坂井大輔『平和園に帰ろうよ』
小坂井大輔の第一歌集『平和園に帰ろうよ』(2019年)に収められた一首です。
昔、自動販売機のボタンを二つ同時に押せば、二つのジュースが混じったジュースが出てくるといわれて本当に信じていました。しかし、結局二つのボタンを全く同じタイミングで押すことはできず、二つの味が混じったジュースが落ちてくることは一度もありませんでした。
さて、この歌は自動販売機のボタンを同時に押せよと読み手に投げかけているような一首です。
「ありとあらゆる部分」とは一体どこからどこまでなのだろうと想像する楽しさがありますし、「押せよ」という軽い命令口調や「叶うぜ」というちょっとカッコつけた感じの言葉も魅力的に映ります。
ここで「押せよ」といっているボタンはおそらく二つだけではなく、自動販売機につけられたすべてのボタンを指しているのだと思います。すべてのボタンを同時に押す方が難易度は高いですし、「ありとあらゆる部分」という部分から、二つだけではなくすべてのボタンを指していると考えた方がふさわしいように感じます。
すべてのボタンを同時に押すことができれば、きっと「叶う」のでしょう。「叶う」のは何であるかは言及されていませんが、それは読み手がそれぞれに想像すればよいのだと思います。
とにかくボタンを同時の押すことができれば「叶う」ことは間違いなさそうです。
一字空けも効果的で、その後に続く「叶うぜ」という云い切りの一言が、そばで友達に語りかけられているような心地よさがあり、一首を読み終えたあと、わずかながらに元気をもらったと感じることができる一首だと感じます。
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