肺活量に自信ある君蟹みたくアイスコーヒーぶくぶくさせて
川島結佳子『感傷ストーブ』
川島結佳子の第一歌集『感傷ストーブ』（2019年）に収められた一首です。
アイスコーヒーにはストローが刺さっていると想像したいと思います。
アイスコーヒーに限らず、飲み物にストローが刺さっていると、単におとなしく飲み物を飲むのではなく、「ぶくぶく」とさせたくなる気持ちはよくわかります。
ただし、ぶくぶくとさせる行為は品のよい行いと見られることはほとんどないため、公共の場でのぶくぶくは敬遠されることが多いでしょう。
掲出歌では、アイスコーヒーをぶくぶくさせている場面が詠われていますが、ポイントは上句にあると思います。
ここでは「肺活量に自信ある君蟹みたく」と表現されています。
まず、主体と君との関係ですが、君が肺活量に自信があることを知っている程度の関係であることはわかります。また君が主体の前で、ぶくぶくしても怒られない、あるいは敬遠されない程度の関係であることも想像できるのではないでしょうか。
続いて、君がぶくぶくさせている状況に対してですが、ぶくぶくさせている君は「蟹」に喩えられているのです。
確かに「ぶくぶく」といえば泡のイメージがあり、泡といえば「蟹」みたいな連想は容易にできるのですが、この喩えがあまりにもストレートというか、素直すぎるような気がします。
確かに言葉の表現上は、「蟹」と「ぶくぶく」はつながるところがありますが、実際に蟹が泡を吹いている光景と、君がアイスコーヒーをぶくぶくさせている光景は、それほど似ているものといえるのでしょうか。どちらかといえば、あまり似ていないかもしれません。
それにも関わらず、蟹とアイスコーヒーのぶくぶくをつなげているところに、この歌の防御のなさといいますか、素直さといいますか、そのようなものを感じずにはいられません。
些細なひとコマといえばひとコマなのですが、そのひとコマが素直に、そして技巧を駆使せず詠われているところに非常に好感をもって読める一首なのではないかと思います。
