傘の歌 #32

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傘の短歌

バーバリーもレノマの傘も役立たぬ 私の中に雨が降るとき
大田美和『きらい』

大田美和の第一歌集きらい(1991年)に収められた一首です。

「バーバリー」はイギリスのファッションブランド、「レノマ」はフランスのファッションブランドです。

この歌に登場する「傘」は、製造元がよくわからない傘ではなく、よく知られたファッションブランドの傘です。デザインは固より、機能性や耐久性もひと工夫されている傘かもしれません。

しかし、これらの傘が「役立たぬ」と続きます。

通常降る雨であれば、ブランドものの傘であっても、ブランドものの傘でなくても、壊れていなければ充分役に立つでしょう。

けれども、掲出歌に降る雨は、そのような通常の雨ではありません。「私の中に」降る雨なのです。これは目に見える雨とは違うでしょう。

「私の中に」降る雨とは、恵の雨ではなく、むしろあまり降ってほしくない雨をいっているのでしょう。つまり、どちらかといえば負の側面をもった感情が「私」の心に湧き起こったということを指しているのではないでしょうか。

喩えではありますが、直接的といえば直接的な比喩でしょう。しかし、そのようにストレートにいってしまいたいほどの出来事だったのだと思います。

そのとき、物体としての傘は役に立ちません。ましてそれが「バーバリー」でも「レノマ」でも全く役に立たないのです。ファッションブランドが意味をもつのは、それが物として示せるときであり、物として働くときなのでしょう。

ファッションブランドの傘は、製造元不明の傘に比べ、プラスアルファの優位性のイメージがありますが、「私の中に雨が降るとき」の対処においては、その優位性は何も意味がないといえるのではないでしょうか。

二つのファッションブランドを引き合いに出すことで、より具体的なイメージが浮かびやすくなっています。この二つは、主体が普段愛用しているファッションブランドなのかもしれません。

この歌は何もファッションブランドの役立たない様をいいたいわけではなく、愛着をもっているブランドの物であっても、防げないこと、解決できないことはあるということをいいたいのではないでしょうか。

それほどまでに「私の中に雨が降るとき」は、強い印象を残す状態だったのかもしれません。

ファッションブランドの具体的な名前が効果を上げている一首だと感じます。

傘

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