生きる– tag –

〈ただ生きてゆくことだけを意識して生きる折り畳み傘を持たずに〉（川島結佳子『感傷ストーブ』）

〈途方もなく未来のことを託される前売り券が重たくて春〉（塚田千束『アスパラと潮騒』）

〈うしなへば自由になれる　きつかけは些細で後はとつぴんしやん、と〉（西橋美保『うはの空』）

〈これまでの十の幸運十の不運かぞへあげつつ眠りにつかむ〉（小池光『サーベルと燕』）

〈夕闇に紛れゆくときゐなくてもゐてもゐなくてもよいわれとはなりぬ〉（大室ゆらぎ『夏野』）

〈耳から生まれ耳に死にゆく人間の途中の耳とふれつつおもふ〉（河野美砂子『無言歌』）

〈楽になる時はあるときふっとくる　あるときふっとはいつやってくる〉（中津昌子『風を残せり』）

〈卓上に紙屑がひとつあるゆゑにけふの日が否定されたるやうな〉（小島熱子『りんご1/2個』）

〈春だから生きているのかいないのか曖昧にしていい春だから〉（谷川電話『深呼吸広場』）

〈理由などいつもあとからついてくるなだらかにうねる道のかたへを〉（三島麻亜子『水庭』）

〈時が止まればいい　さう思はなくなつてずいぶん歩いてしまつた〉（大森益雄『歌日和』）

〈生きてゐる間はせめて思ひたい他の生き方あるかもしれぬ〉（香川ヒサ『ヤマト・アライバル』）