若き日の問ひは大方消え去りぬ答なきまま 散りゆく雲よ
春日いづみ『地球見』
春日いづみの第五歌集『地球見』(2022年)に収められた一首です。
若い頃だけとは限りませんが、人生というのは、問いの連続なのだと思います。
なぜ生きるのか、なぜ働くのか、なぜ人は死ぬのか……
人生における問いというのは、数学の問題のように明確な答えがあるわけではありません。
掲出歌の「若き日の問ひ」というのも、おそらくは簡単に答えることのできない「問ひ」だったのではないでしょうか。
この歌は、若き日から随分時間が経過してから詠まれた歌で、「若き日の問ひ」を振り返っているのでしょう。
あのとき抱いていた疑問や悩みも、時間が経てばいつしか忘れてしまうものであり、明確な答えが出ないまま、消え去ってしまったのです。本当は答えを出したかったのかもしれませんが、出せずに終わってしまったのです。ある意味、時間が解決してくれたということもできます。
結句の「散りゆく雲よ」が印象的です。ここには複雑な思いが重なっているように感じます。
ひとつは、答えのないまま問いが消え去った、つまり答えは出なかったけれど解消されたということを、雲が散る様子に重ねることができるでしょう。
もうひとつは、その問いが消え去ったこと自体の寂しさのようなものを感じます。かつてのように、もう新たな問いを抱いたり、考えたりすることはないのかもしれません。若き日には考えても考えても答えの出なかった問いに対して、悩まされつづけた時期もあったのでしょうが、もう今はそれに悩まされることもなくなってしまったのです。若き日の熱い日々が、そして熱い気持ちが薄れていく様子が「散りゆく雲」に重なり、何ともいえない気持ちになります。
「散りゆく雲よ」の「よ」が、単純には表せない感情をより一層物語っているようで印象に残ります。
また四句と結句の間の、この一字空けはとても効果的だと感じます。一呼吸置いた後の「散りゆく雲よ」で、場面が空にフォーカスされる、この間合いがとても心地よい一首です。
「問ひ」というものを通して、人生と時間についてさまざまなに考えさせられる一首ではないでしょうか。
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