樟の葉に朱の葉まじるをあおぎみて午後の講義に急がんとすも
島田幸典『駅程』
島田幸典の第二歌集『駅程』(2015年)に収められた一首です。
クスノキは、クスノキ科の常緑高木です。非常に大きく成長する木であり、山奥の守り神的な存在としてあがめられり、神社の御神木として大切にされているケースも見られます。寿命が長く、樹齢何千年といったクスノキも日本各地には存在します。
一般的には、防虫効果のある樟脳の原材料としても知られているでしょうか。
さて、クスノキは、春に古い葉を落とし、新しい葉との入れ替えを行います。古い葉は赤く色づき、やがて落ちてきます。
この歌は、そんな春の午後を詠った一首です。
緑色の樟の葉に、やがて落ちていく赤い葉がまじっているところを、主体は見上げているのでしょう。そして、午後の講義に急いで向かおうとしているのです。著者は歌人でありながら、大学教授でもあります。ですから、ここで詠われている講義は大学の講義であり、学生として教わりにいくためのものではなく、教授として教えにいく講義を指しているでしょう。
講義の開始時間に少し遅れてしまいそうな場面でしょうか。のんびりとクスノキを見上げている時間があればいいのでしょうが、どうもそれほど時間があるわけではなさそうです。
でも、天気はよかったのではないでしょうか。大雨であれば、クスノキを見上げようという行動はおそらくとらないと思います。気持ちのいい陽射しが空からは降り注いでいたのだと思います。葉の色合いを確かめているところを見ると、春の心地よい天気の中で、見上げている場面を想像します。
午後の講義の時間が迫っているのですが、樟の葉をあおぎみる心の余裕が、春のあたたかさと相まって感じられます。このような背景から、ここで登場する補色は緑の葉と赤い葉のくっきりとした対比ではなく、むしろやわらかな色合いの対比を感じられるのではないでしょうか。
つまり、完璧な補色ではなく、補色だけれどやわらかな補色といったイメージでしょうか。緑と赤が対立してお互いを際立だせるというのではなく、緑と赤が互いを支え合いながら互いが互いを際立たせる、そんな一首なのではないでしょうか。

補色とは?
色相環で正反対に位置する関係の色の組合せのことで、余色、対照色、反対色などとも呼ばれます。例えば、赤と緑、黄と紫、橙と青など。補色の効果として、互いの色を引き立て合う相乗効果があります。

