食パンをキャンバスにする画家らしい作品は基本食べちやふらしい
山田航『寂しさでしか殺せない最強のうさぎ』
山田航の第三歌集『寂しさでしか殺せない最強のうさぎ』(2022年)に収められた一首です。
アーティストの世界は広いもので、食パンをキャンバスにした「パンアート」と呼ばれる作品を制作しているアーティストもいるようです。
掲出歌は、そのような画家に焦点を当てた歌です。
通常、絵の具などで描いた作品は飾ったり、販売したり、誰かにあげたりされますが、食べることはまずありません。しかしこの歌に登場する作品は完成した後に食べてしまうらしいのです。下句の「作品は基本食べちやふらしい」といういい方が、どことなくお茶目な印象を与えてくれるところも面白いです。
「作品」の定義とは何なのでしょうか。そのかたちを残さなくても「作品」と呼べるのでしょうか。SNSの普及により、作品そのものは残らなくても、写真に撮ってインターネット上に画像として残すことが可能な時代となりました。食べてしまったとしても、画像として残りつづければ、記録となりますし、作品の行く末という意味においては「食べる」という消費行為は作品の新たな取り扱い方なのかもしれません。
「らしい」の繰り返しがもたらす意味合いとリズム感とによって、一首から立ちあがる雰囲気にとても好感のもてる歌になっていると感じます。