パンの歌 #21

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パンの短歌

水仙の薫る小路を抜けてゆく朝の焼きたてコッペパンまで
藤島秀憲『すずめ』

藤島秀憲の第二歌集すずめ(2013年)に収められた一首です。

季節は冬、時間帯は朝、水仙が咲く小路を歩いている場面でしょう。冬の朝の冷たい空気に水仙の香が一際感じられるのではないでしょうか。

さて、その小路を歩いていくのには目的があり、それは「焼きたてコッペパン」を求めてパン屋へ向かうためなのです。目的地がパン屋ではなく、誰かパンを焼いてくれる人の家とも考えられますが、ここではパン屋と採っておきたいと思います。

下句の「朝の焼きたてコッペパンまで」といういい方がとても巧く印象に残ります。”朝に”ではなく「朝の」、”コッペパンを買いに”ではなく「コッペパンまで」というフレーズの組み合わせによって、コッペパンの焼きたて感や、そのコッペパンを求める気持ちというのがより一層強調され伝わってくるように感じます。

前半の冬の冷たい雰囲気と、後半のコッペパンのあたたかさの対比が鮮やかであり、最終的には「コッペパン」に焦点が当たる仕掛けとなっているところが本当に巧いと思います。

巧いけれども嫌味ではないところに、この歌のよさがあるのではないでしょうか。

焼きたてのコッペパンがこれほどおいしそうに感じられる歌は他にあまりないかもしれませんが、この歌は「朝の焼きたてコッペパン」のおいしさが前面に出た一首として、とても惹かれます。

コッペパン
コッペパン

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