窓枠のかたちの届く距離が日々変化して人生はおもしろい
虫武一俊『羽虫群』
虫武一俊の第一歌集『羽虫群』(2016年)に収められた一首です。
「窓枠のかたち」とは、部屋の床や壁に現れる陽の当たった窓の影のことを指しているのでしょう。その影のかたちが日ごとに変わっていく、つまり季節の移ろいを感じている様子がこの歌から伝わってきます。
主体は、窓の影が「届く距離が日々変化」していくことを興味をもって眺めており、そこから「人生はおもしろい」という感情につながっていくのです。小さな変化を見つめる目が素敵だと感じます。
人生はつらいと感じながら生きるより、どうせなら楽しく面白いと感じながら生きていくほうがいいでしょう。いいかえれば、人生をどう楽しく面白く捉えられるかということではないでしょうか。
人生は思い通りにいくことばかりではありません。むしろ思い通りにならないことの方が多いかもしれません。そんなときでも、その状況をどう捉えるかが大切で、現状は変わらないけれども、捉え方次第で人生を変えていくことはできることもあるのではないでしょうか。
「人生はおもしろい」というためには、窓枠のかたちの日々の変化といった小さな変化にも気づくことができる目の向け方が重要でしょう。そのような些細な変化をどれだけ楽しめるか、それを楽しめる人だけが「人生はおもしろい」といえるのかもしれません。
窓の影が伸びたり縮んだりしていく様子に気づかなくても、日常生活を送る上でたいした影響はないでしょう。しかし、人生を豊かにするかどうかという視点に立てば、これは圧倒的に窓の影の変化を見つめる日々の方がいいといえるでしょう。
人生とは、同じような繰り返しの毎日が続くように感じられる中でも、小さな変化を見つけて楽しめる心をもっているかどうかで面白さは変わってくる、そんなことを考えさせられる一首です。