問題に取り組むよりも問題を忘れることで生きのびてきた
工藤吉生『世界で一番すばらしい俺』
工藤吉生の第一歌集『世界で一番すばらしい俺』(2020年)に収められた一首です。
日々生活していると、さまざまな問題が降りかかってきます。仕事、恋愛、家族、人間関係、金銭など、小さな問題から大きな問題まで色々でしょう。
さて、そんな問題が発生したときに、どのように対処していくかは人によって異なると思います。正面から取り組む人もいれば、誰かに任せてしまう人もいるでしょうし、問題をほったらかしにしてしまう人もいるでしょう。
掲出歌では「問題を忘れる」という方法を採ってきたことがわかります。
「生きのびてきた」とあるので、これまでさまざまな問題がありながらも何とかここまで生きてきたことが感じとれます。
生きのびるために、主体にとって最も効果的な方法が問題に「取り組む」よりも「忘れる」という方法であったのです。
「問題を忘れる」とは、問題を直視しない、問題が起こったことをなかったことにするのと同義でしょう。
問題が起こったときは、さあ大変だ、と思うものですが、時間が経てばやがて忘れてしまいますし、それほど大きな問題ではなかったのではないかと感じることもしばしばです。
「問題を忘れる」には主体の生き方が表れているでしょう。
問題に正面きって取り組むことだけが正解ではありません。生きていくために自分にとって適切な向き合い方は何かをもう一度自分に対して問いかけてみてはどうでしょうか。問題が起こったときどう向き合うか、それにはさまざまな方法があることを教えてくれる一首です。