不意打ちの雨も必ず上がるから島の娘は傘を持たない
松村由利子『耳ふたひら』
松村由利子の第四歌集『耳ふたひら』(2015年)に収められた一首です。
急な雨に見舞われた場合、手持ちの傘があれば、傘を差すのが一般的かもしれません。また朝に天気予報を見て、今日は雨が降りそうだなと思えば、傘をもっていく人も多いのではないでしょうか。朝の通勤電車においても、雨の予報の日は雨傘を携帯している人が多いことに気づきます。
さて、掲出歌はそんな都市とは離れた「島」の話です。ここでいう島は沖縄の石垣島を差しています。作者は2010年から石垣島に移り住みました。
ここで詠われている石垣島の雨は、しつこくない様子がうかがえます。「不意打ちの雨」は「必ず上がる」のです。必ず上がると知っているから、「島の娘」たちはそのようなときにも傘をもたずに生活しているということでしょう。
雨に濡れても構わない、あるいはどこかで少し雨宿りしてもいい、とにかく傘をもつ必要なんてないといった、潔さが感じられます。
この歌は、作者がこれまで見てきた場所とは少し異なる生活習慣に気づいたという小さな発見の歌でもあります。
雨が降ったときは傘を差さなければならないという固定観念を振り払ってくれる一首で、伸びやかさを感じる歌だと思います。