無数の歌 #5

当ページのリンクには広告が含まれています。
無数の短歌

ひらひらと無数のリボンは誰がために揺れてゐるのか扇風機売り場
知花くらら『はじまりは、恋』

知花くららの第一歌集はじまりは、恋(2019年)に収められた一首です。

家電量販店でしょうか。たくさんの扇風機が並べられ、販売されている売り場の場面だと思います。季節はこれから扇風機の需要が高まる頃、初夏から夏にかけてでしょう。

扇風機売り場の扇風機にはリボンがつけられていて、扇風機から風が出ていること、風向き、風の強さがわかるようになっていると思います。リボンは「ひらひら」と揺れているのです。

ここでひとつ疑問が湧いてきます。

売り場では扇風機がたくさん置かれていて、リボンもたくさんつけられているのでしょうが、「無数」というほどの数のリボンが本当にその場に存在したのでしょうか。

いくらその場の扇風機の数が多いとはいっても、ひとつの売り場で無数のリボンというのは過剰な気がします。

「無数」というからにはもっと多くのリボンのイメージがありますが、この歌で詠われているのは、目の前のひとつの扇風機売り場ではなく、主体には直接目に見えていない日本全国あるいは世界各地のありとあらゆる扇風機売り場を指しているのではないかと思います。

扇風機が一斉に売り出される季節の売り場には、それはたくさんの扇風機が風を送っていることでしょう。それらの扇風機にはリボンがつけられていて、ひらひらと揺れているでしょう。

あるいはこの夏だけではなく、主体の記憶の中の扇風機売り場も重なっていて、場所の面でも時間の面でも複数の扇風機売り場が重なるかたちで、「無数のリボン」が導き出されているように感じます。

「誰がために揺れてゐるのか」は、その状況を後押しする表現で、誰かひとりのためにリボンが揺れているというのではなく、特定できない多くの人々にとってのリボンの揺れなのではないかということが窺われるように思います。

扇風機と無数のリボンという組み合わせから、ひとりひとりにとっての懐かしさや記憶のようなものが想像される、そんな一首ではないでしょうか。

扇風機のリボン
扇風機のリボン
楽天ブックス
¥1,760 (2024/04/17 06:05時点 | 楽天市場調べ)

♪ みなさまの応援が励みになります ♪


俳句・短歌ランキング

ブログランキング・にほんブログ村へ

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次