折れた傘が捨てられているごみ箱に僕も捨てたいな折れた傘を
鈴木ちはね『予言』
鈴木ちはねの第一歌集『予言』(2020年)に収められた一首です。
傘が折れたとき、そのまましばらく使い続けるのか、あるいはすぐ捨ててしまうのか、どのタイミングで捨てるかは結構悩むものです。
また捨てるにしても、その長さから家のゴミ箱に入るわけでもなく、不燃ゴミの日を待って捨てるケースが多いでしょう。
それでも公園や広場、また駅のゴミ箱などに、折れた傘が捨てられている光景を目にすることはあるでしょう。
掲出歌は、まさにそんな場面を詠った歌だと思います。
この歌のポイントは、折れた傘が捨てられているゴミ箱を見て、「僕」がどう思ったのかというところでしょう。「僕も捨てたいな折れた傘を」と詠われているのです。
これはすでに誰かが「折れた傘」をゴミ箱に捨てているので、同じように自分の「折れた傘」を捨てたいという思いが表れていますが、”捨てた”ではなく「捨てたいな」という点に注目したいと思います。
「捨てたいな」と思ったのなら捨てればいいのですが、この歌からは「僕」は捨てずにそのまま折れた傘をもったままの状態であることが伝わってくるようです。
ゴミ箱に捨てない理由は何でしょうか。まだ雨が止んでおらず、この後折れた傘でも使わなければならないからでしょうか。新しい傘を買う余裕がないからでしょうか。ゴミ箱に捨てるという行為に抵抗があるからでしょうか。
理由は明らかにされていませんが、微妙に揺れる気持ちが、「ごみ箱」と「折れた傘」から滲み出ている、そんな一首ではないでしょうか。