苛立ちをなだめる為の象かなサンドウィッチのフィルムを剝がす
堀合昇平『提案前夜』
堀合昇平の第一歌集『提案前夜』(2013年)に収められた一首です。
主体は今苛立っていたのでしょう。仕事のことでしょうか、それとも家庭のことでしょうか、あるいはまた別の何かが原因で苛立っていたのでしょうか。
その苛立ちの中で、「サンドウィッチ」を食べようとしている場面です。「フィルムを剝がす」とあることから、自家製のものではなく、透明なフィルムに包まれて店で売られているサンドウィッチを指していると思われます。
サンドウィッチのかたちは三角形のものもあれば、四角形のものもあります。ただ、フィルムに包まれて売られているのは三角形のものが多いように思いますので、ここでは三角形のサンドウィッチとして捉えておきましょう。
そんなサンドウィッチのかたちを「苛立ちをなだめる為の象」というふうに感じているのです。
確かにサンドウィッチは断面がはっきりと見え、食パンの白と具材の鮮やかな色彩との対比で、見る者の目を楽しませてくれるでしょう。しかし、「苛立ちをなだめる」というのはあまり聞いたことがありません。
サンドウィッチの形状に苛立ちをなだめる効果があるということではなく、主体にとってサンドウィッチを手にするときの穏やかな気持ち、落ちつく気持ち、ほっとする気持ちというのが、「苛立ちをなだめる為の象」という表現に表れているのだと思います。
苛立ちを感じる中でも、それを目にしたり手にしたりすることで、苛立ちが収まっていくものがあるかどうか、そういうものをひとつでももっているかどうか。自分の思い通りにいかないことも起こる日々においては、結構重要なことかもしれません。
主体にとってはサンドウィッチのフィルムを剝がす瞬間が最も心安らぐときなのかもしれません。苛立ちから安らぎへの推移が見える一首ではないでしょうか。