自販機に〈なまぬるい〉のボタン見つけたらわたしはきっと次の段階
鈴木美紀子『風のアンダースタディ』
鈴木美紀子の第一歌集『風のアンダースタディ』(2017年)に収められた一首です。
通常、自動販売機のボタンは”つめた~い”か”あったか~い”の二種類であり、夏場はほとんど”つめた~い”に、冬場は多くが”あったか~い”のボタンに設定されています。
掲出歌は、〈なまぬるい〉という今までに見たことのないボタンが登場します。
これは実際にあるボタンではないでしょうが、もしも「わたし」が〈なまぬるい〉のボタンを見つけたとしたらという設定の歌でしょう。
〈なまぬるい〉はいってみれば”常温”とほぼ同じことなのかもしれません。冷たすぎず、温かすぎない飲み物がほしくなる状況というのもあるでしょうが、自動販売機は温度を調節することがひとつの目的であるため、冷たいか温かいかの二極となり、実際に”常温”のボタンはないのでしょう。
〈なまぬるい〉は”常温”と温度的には同様だったとしても、表現から受ける印象は随分異なります。
〈なまぬるい〉には全肯定の印象はなく、人によってはあまりよくない印象で受け取る人もいるでしょう。「なま」「ぬるい」といった言葉に生々しさがあり、まるでその温度が悪いことのように捉えられてしまうこともあるでしょう。
「わたし」がもしそんな〈なまぬるい〉ボタンを自動販売機に見つけたとしたら、それは「次の段階」だというのです。
何に対して「次の段階」なのでしょうか。
思考に対して、何かを発見することに対して、何かと遭遇することに対して、日々に対して、人生に対して、さまざまあるでしょうが、現状の自分自身と比べて「次の段階」へいけるということなのでしょう。
なぜ〈なまぬるい〉ボタンを見つけたら、次の段階にいけるのか、その理由は明確にされていませんが、〈なまぬるい〉ボタンのような、通常ではありえないであろうものを見つけることができれば、それはやはり特別なことなのではないでしょうか。
それがイコール「次の段階」ということなのだと思います。
自動販売機の当たり前を一歩進み、〈なまぬるい〉ボタンという発想へたどり着いたそのこと自体が面白く、視点の鋭さを感じる一首です。