日常にしずんで雨の東京は傘と傘とをぶつけるところ
伊波真人『ナイトフライト』
伊波真人の第一歌集『ナイトフライト』(2017年)に収められた一首です。
日本の首都である東京に対するイメージを一言で表現するとすれば、どういった表現が最も適切でしょうか。
それは人によって、あるいは時と場合によって異なるでしょうが、いい意味で表現する場合もあれば、あまりよくない意味で表現する場合もあるでしょう。
掲出歌は、雨の日の東京を「傘と傘とをぶつけるところ」と捉えており、ここに独自の視点がうかがえます。
確かに人が多く集まる場所、道路や交差点などでは、傘を差していない状態でさえ人と人が触れ合うのに、傘を差していればなおさら人との接触があります。それもやさしい接触ではなく「ぶつける」接触なのです。
傘と傘とのぶつかり合いは、心と心のぶつかり合いを想起させます。東京という喧騒の中で、どこか人々の乾いた心がそこに存在するのかもしれません。それは雨という日において、心をやさしく湿らせてくれるわけではなく、むしろ晴れの日よりも一層苛立ちを増しているのではないでしょうか。
「しずんで」と表現がどこか暗さを湛えており、傘がぶつかり合うような状況に対しても、諦念のような思いが滲み出ている一首だと感じます。