透明の傘をひらけばみどりごと我にあかるき雨降りかかる
中津昌子『風を残せり』
中津昌子の第一歌集『風を残せり』(1993年)に収められた一首です。
透明の傘は、ビニール傘のことでしょうか。主体は嬰児を胸に抱えている状況で、雨が降ってきたので傘を差した、そのような場面ではないかと思います。
注目したいのは下句の「あかるき雨降りかかる」の部分です。
天気雨という特殊な場合もありますが、一般的に雨が降る場合、太陽は出ておらず、雨空は暗い感じを受けることがほとんどでしょう。
そのような中、降っている雨に明るさを感じることはあまりないように思います。
この歌では「あかるき雨」が詠われているわけですが、それは透明の傘に雨粒がかかったことによって、雨の明るさが認識されたのでしょう。
傘がなく、雨がただ通り過ぎていく情景を見ているだけでは、雨の明るさを感じることはなかなか難しいのではないでしょうか。
透明の傘で雨を防ぐことによって、初めて雨の明るさが浮き彫りになる、そんな印象が伝わってくるようです。
もちろんそういった見た目の明るさだけでなく、「みどりごと我」が一緒にそこにいるという状況が、より一層「あかるき雨」に感じさせてくれているのでしょう。
難しい言葉を用いていない歌で、歌集の中で見過ごしてしまいそうな歌ですが、雨の明るさ、みどりごと我のあたたかさなどが感じられ、光に充ちた世界が拓けていくような印象のある一首だと感じます。