傘の歌 #34

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傘の短歌

人よりも傘はもろきをきりぎりに気流みだるるくうに差し出づ
川野芽生『Lilith』

川野芽生の第一歌集Lilith(2020年)に収められた一首です。

雨が降れば人は傘を差す、その光景は見慣れたものであり、日常生活において、その行為を深く考えたり、疑いを抱いたりすることはほとんどないでしょう。

しかし、掲出歌のように詠われると、傘を差すという行為が当たり前の行為ではないと認識させられるように思います。

まず「人よりも傘はもろきを」については、人は雨風から自分を守ろうとして傘を差すわけですが、確かに突風や豪雨で先に壊れてしまうのは傘の方でしょう。傘の方が脆いのに傘を差そうとするのです。そこに傘を差す行為とは何かを改めて問い直す必要があるのではないでしょうか。

続く「きりぎりに気流みだるる」という表現においては、切迫感のある状況が提示されていると思います。カンカン照りのときに差す日傘ではなく、やはり雨風を凌ぐ雨傘が詠われているとここで判断していいでしょう。

この歌を一読したときに耳に残るのは、「傘」「きりぎり」「もろき」「気流」「くう」のK音です。これらK音を含む言葉が随所に配置されることによって、鋭さをもった印象が読み手に伝わってくるのではないでしょうか。“そら”ではなく「くう」となっているのも、これら音の要請から来るものでしょう。

またK音の背後には、「人よりも」「もろき」「きりぎり」「気流」「みだるる」といった言葉に見られるように、M音やR音も複数登場し、これらの音の繰り返しも、ある種の統一された歌の方向性を示すために選ばれたものかもしれません。

人が傘を差す行為を詠った歌ですが、同子音の繰り返しやリズムなどを含めて、何度も味わいながら深く考えさせられる一首だと感じます。

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