ひとを待つひるのすさびに雨傘の無防備なひろがりを眺めて
荻原裕幸『リリカル・アンドロイド』
荻原裕幸の第六歌集『リリカル・アンドロイド』(2020年)に収められた一首です。
人を待っている時間にすることといえば何でしょうか。
最近ではスマホが普及したため、多くの人々はスキマ時間があればスマホをいじっていることも少なくありません。待ち人が来るまでの間に、スマホを触るのもごく普通の風景となりました。
さて掲出歌は、人を待っていますが、その間にスマホを触っているわけではありません。何をしているかというと「雨傘の無防備なひろがりを眺めて」いるのです。
雨の日の待ち合わせでしょう。自分が差している傘を内側から眺めている場合と、どこか屋根のある場所で街行く人たちの傘のひろがりを上から眺めている場合とが考えられます。
仮に自分が差している傘を内側から眺めているとして、「無防備なひろがり」が傘の骨組みの隙間だらけのよわよさしさを表しているようにも感じます。
傘というのは何かを守る楯のようでもありますが、それにしてはあまりにも無防備なものだと捉えられているのです。雨粒は凌げても、それ以外の大きな力からは、雨傘のひろがりだけでは防ぎようがないでしょう。
しかし、人を待つ昼に雨傘のひろがりを眺めるひとときはどこか穏やかで、スマホをいじっている時間と比べれば、何とも豊かな時間であると感じさせてくれる一首ではないでしょうか。