花柄の傘を開けば色彩に包まれている いつかやむ雨
川本千栄『樹雨降る』
川本千栄の第三歌集『樹雨降る』(2015年)に収められた一首です。
“やまない雨はない”とはよく耳にする言葉ですが、雨は「いつかやむ」ものなのでしょう。
そんな「いつかやむ雨」なのですが、その雨に対して「花柄の傘」を開いている場面が詠われています。傘に包まれるのでもなく、花に包まれるのでもなく、「色彩に包まれている」といういい方がとても魅力的に感じます。
「色彩に包まれている」時間は、主体にとっては貴重な時間なのかもしれません。そして主体をより主体らしく輝かせてくれるものなのではないでしょうか。
「花柄の傘」がもたらす「色彩」は、まさに色鮮やかに主体を包み込んでいるのです。包まれている主体は、その色彩のように明るく鮮やかに色とりどりに存在感を示しているように感じます。
しかしその輝かしい時間は、「花柄の傘」を開いている時間に限られているように思われます。時間的限定があるからこそ、その時間がより一層輝く時間となるのではないでしょうか。
ですから、結句の「いつかやむ雨」という部分には、ほんのわずかにさみしさのようなものが含まれているように感じてしまうのです。
雨はいつかやむでしょう。雨がやむまでは色彩に包まれていることができますが、逆に見れば、雨がやんだ後はその色彩を解かれてしまうということを意味します。
「いつかやむ雨」という終わり方に、客観的というかドライというか、とにかく冷静な目を感じずにはいられません。
どれだけ「色彩」に包まれていて輝かしい瞬間を味わっていようと、主体は雨がやむことを知っているのです。
だからこそ、この歌は、さみしくもあるし、色彩に包まれている時間の貴重さがひしひしと伝わってくる一首だと思います。