傘の歌 #19

なんらかのテストのようでまた傘の角度を前に左に変える
虫武一俊『羽虫群』

虫武一俊の第一歌集『羽虫群』（2016年）に収められた一首です。

雨はまっすぐ下に降る場合もあれば、風に吹かれて斜めに降ってくる場合もあります。

また進行方向に対して、向かってくるように降る場合もあれば、後ろから降ってくる場合や横から降ってくる場合もあるでしょう。

掲出歌は、やさしい雨ではなく、暴風雨のような厳しい雨の場面だと思います。そして、さまざまな方向から降ってくる雨を「テスト」に喩えているのです。雨をテストに喩えたところがユニークで、見どころとなっています。また初句の「なんらかの」という言葉は、テストのようなんだけれども何のテストかはわからない様を表すのに、非常に的確な表現だと感じます。

とりあえず、この雨は「テスト」ですから、テストの問いに対する答えとして「傘の角度」を変えて対応している姿が浮かび上がってきます。

雨に濡れないように傘を差しているわけですが、そこにテストという概念を持ち込んだことによって、傘の角度を変えるという動作を強いられているような印象を受けます。

世の中にはいろいろなテストがあるでしょうし、自ら望むテストと望まないテストがあるでしょう。しかし一見テストとは関係のないような日常の一場面でも、人はテストに望まないといけない生き物なのかもしれないと、ふとそんなことを考えさせられる一首です。