たわむれに傘をかざせばふりかかるきらきら雨は不幸のほそさ
野口あや子『眠れる海』
野口あや子の第四歌集『眠れる海』(2017年)に収められた一首です。
降っているときの雨というものは、その形状を表現することが難しいところがあります。
もちろん雨粒であるとか、斜線のようであるとか、既知の知識から述べることは可能です。しかし、実際に雨をじっと観察して表現している人は少ないのではないでしょうか。
掲出歌では、かざした傘に雨がふりかかったときの状況が詠われています。ふりかかったのは雨ですが、その雨は「きらきら」と光っています。傘で受け止めた雨だからこそ、そこに「きらきら」を見出すことができたのでしょう。
しかし、この「きらきら」は肯定的なほうのきらきらではなく、「不幸のほそさ」を伴った雨のきらきらなのです。いや、非常に細くよわよわしく、不幸だからこそ一層「きらきら」と輝くのかもしれません。
「たわむれに」傘をかざしたことも、さらに不幸の側面を強めているところがあるでしょう。たわむれにかざしたがために気づいてしまった雨の細さ。
見る者の心を映し出すかのような雨のきらきらですが、かなしくもありながらやはり美しさをそこに感じてしまう一首です。