いっぽんの傘をかざして半身と半身ひしめきあう雨のなか
山崎聡子『青い舌』
山崎聡子の第二歌集『青い舌』(2021年)に収められた一首です。
ひとり一つの傘ではなく、二人で一つの傘を差している場面でしょう。
傘のサイズは様々ですが、一般的な傘は一人用につくられているため、それほど大きくありません。二人を覆うほどの大きさはなく、どうしても傘からはみ出す部分が出てくるでしょう。
傘の外側、つまり雨に濡れてしまう範囲には、Aさんの半身とBさんの半身がはみ出ているのです。一方、傘の内側、つまり雨に濡れない範囲には、同様にAさんの半身とBさんの半身が収まっているのです。AさんあるいはBさんのどちらかは、主体そのものと見てもいいでしょう。
「ひしめきあう」という表現が、傘の内側の騒がしさを表しています。できるだけ雨に濡れないように傘の中心側へと体を寄せ合おうとし、お互いに押し合うようにしている状態が想像できるのではないでしょうか。
この「半身と半身」はAさんとBさんのそれぞれ別物のはずなのですが、傘の内側という領域においては、お互い押し合いながらもどこか一体感を感じさせるような印象を受けます。
それは半身二つよりも、「いっぽんの傘」が確保する範囲の方が、領域としての強度が強いからではないでしょうか。雨の中の一本の傘は、それだけでひとつの世界を構築してしまうほどの存在感を放っているでしょう。
半身と半身が、一本の傘の中で相対しながらもやがて一体感をもっていく様を感じる一首だと思います。