従業員食堂の醬油ラーメンは毛玉のようなネギをし乗せて
染野太朗『あの日の海』
染野太朗の第一歌集『あの日の海』(2011年)に収められた一首です。
ラーメンを食べたいと思ったとき、どこを訪れますか。
ラーメンを提供してくれる場所はさまざまあります。ラーメン専門店はもちろんのこと、ほかにもレストラン、中華料理屋、学校や会社の食堂、医療機関の食堂、ショッピングモールのフードコート、ドライブイン、サービスエリア、居酒屋、はたまた家など…。
掲出歌は、数々あるラーメン提供場所のうちの従業員食堂の場面が詠われています。主体が勤める職場の従業員食堂でしょうか。それとも直接勤務とは全然関係のない、偶々その従業員食堂がある場所へいく用事があり、偶々そこの従業員食堂で注文した歌でしょうか。
とにかく主体は、その従業員食堂で「醬油ラーメン」を注文したのです。
ラーメンには、大抵ネギが乗っているでしょう。この歌で面白いのは、この醤油ラーメンに乗っているネギは「毛玉のような」ネギなのです。うまく切りきれていないのか、塊になったネギを想像します。ところどころは蛇腹状といいますか、アコーディオンのような感じといいますか、そんな部分もあったのかもしれません。とにかく切れてないのでしょう。「毛玉のようなネギ」なのです。この言葉を聞いているだけで、あまりおいしそうではありません。「毛玉」は食べ物ですらありません。実際、塊になったネギはあまりおいしくないでしょうし、食べ物を形容するのに不釣り合いな「毛玉」という言葉自体が、本当においしくなかった感じを的確に表しているでしょう。
さまざまなメニューを提供する従業員食堂に、ラーメン専門店のような味やクオリティを求めても仕方ないかもしれません。従業員食堂は、ラーメン専門店と違ってラーメン一本でやっているわけではないのです。カレーライスもあれば、うどんもある。オムライスもあれば、ハンバーグもあるでしょう。煮物や総菜の小鉢もあるのです。あれこれと提供する必要があるのです。ラーメンだけに注力するわけにはいかない事情があるのです。あれこれとメニューをそろえているからこその従業員食堂なのでしょう。
しかし、しかしです。そうはいっても、ネギくらいはもう少し丁寧に切って盛り付けてほしい気がします。ネギがシャキシャキしているだけで、ラーメンの印象は随分と変わるのではないでしょうか。
もちろんクオリティは、ラーメン専門店とは違うでしょう。しかし、ネギが通常通り切ってあるだけで、この醤油ラーメンを好感をもって食べることができたのではないでしょうか。そんなことを考えてしまいます。
「ネギをし乗せて」の「し」は強調の意味合いでしょうが、この「し」が思いのほか効いており、「毛玉のようなネギ」に対する主体の残念なような、諦念のような感情をよりよく表しているのではないでしょうか。


