こってりをあっさりで割りこっさりと云うらしいのだ 天下一品
小俵鱚太『レテ/移動祝祭日』
小俵鱚太の第一歌集『レテ/移動祝祭日』(2024年)に収められた一首です。
「天下一品」とは京都市を発祥としたラーメンチェーン店で、濃厚でドロッとしたスープが特徴の「こってり」ラーメンで知られています。
しかし、「天下一品」のラーメンメニューは「こってり」だけはありません。「こってり」と対極をなすように、醤油ベースの澄んだスープの「あっさり」ラーメンもあります。「天下一品」の代名詞でもある「こってり」が苦手という人でも、「あっさり」で天下一品のラーメンを楽しめるようになっています。
さて、ここで注目すべきは「こってり」でも「あっさり」でもない「こっさり」です。「こってりをあっさりで割り」と詠われている通り、「こってり」と「あっさり」の中間に位置するラーメンです。
天下一品ファンメディアというウェブサイトによれば、五段階評価で「こってり」が4、「こっさり」が3、「あっさり」が1というこってり指数で示されています。ちなみにこってり指数5は「こってりMAX」です。
「こっさり」という言葉を初めて聞いたときは、何だこれはと思ったものですが、何度も耳にするうちに、だんだんと「こっさり」という響きが馴染んでいく感じがしました。「こっさり」という語は天下一品オリジナルである上に、「こってり」と「あっさり」を割ったものだということが、言葉の音からすぐにわかりますし、一度聞いたら忘れない語感をもっている大変優れたネーミングなのではないでしょうか。
この歌は、主体が「こっさり」ラーメンを初めて食べたときのものでしょうか。それとも伝聞で「こっさり」があるというのを知っただけの場面でしょうか。一字明けの後の結句の「天下一品」が店名を示しているのはもちろん、同時にいわゆる四字熟語の「天下一品」の意味合いで使われていると考えると、前者のように、「こっさり」ラーメンを食べて、そのおいしさに浸っている場面と捉えることもできるかと思います。その方が今まさに「こっさり」ラーメンに向き合っている姿が浮かんできて臨場感があるのではないでしょうか。
「云うらしいのだ」という、いかにもとぼけたいい方がまた味わいを出していると感じる一首です。



