自動ドア開かないようにひらがなのくの字ですする煮干しラーメン
岡本真帆『水上バス浅草行き』
岡本真帆の第一歌集『水上バス浅草行き』(2022年)に収められた一首です。
ラーメン屋の入口付近の席なのでしょう。入口は自動ドアであり、背中を伸ばすと自動ドアが反応して開いてしまうので、体を「くの字」に曲げて煮干しラーメンを啜っている場面だと思います。
元々ラーメンを食べるときは前傾姿勢となり、背中は曲がるものですが、自動ドアが開かないように、より一層体を曲げて食べているといったところでしょうか。
他の人から見ると、体を伸ばすことなく「くの字」で食べている姿は、よほど熱心にラーメンを啜っていると思われるかもしれません。けれどもその実態は「自動ドア」が「開かないように」であるところに、自他のギャップが垣間見られ面白い歌となっています。
それにしても、「くの字」だけでもわかりそうなものを、わざわざ「ひらがなの」と冠しているところもこだわりの表れのようにも思います。「くの字」の強調とも、ダメ押しとも採れますが、一番は読むときに一呼吸置く間合いのようなものを意識して挿入されたのではないかと感じます。
この歌を知った後にラーメン屋に入ったとき、入口付近の客の体の曲がり具合をつい見てしまう気がします。